圧倒的第一想起につながる究極の顧客体験。ヤッホーブルーイングの戦略と組織に迫る

2022年4月20日〜21日、弊社主催のオンラインイベント「ソーシャライズサミット2022 真っ先に選ばれるブランドになるための新常識」を開催しました。

情報爆発の時代において、真っ先に選ばれるブランドとなるために有効なのが、マーケティングコミュニケーションの 「ソーシャライズ」 です。

ソーシャルメディアに代表されるように、人と人、興味と興味がつながり、あらゆる垣根を超えた発信や共有が当たり前となったいま、企業は消費者とどのようにコミュニケーションしていくべきなのでしょうか。

トークセッション「圧倒的第一想起を獲得するための戦略と組織の理想とは」では、株式会社ヤッホーブルーイングの佐藤 潤さんとトライバルメディアハウスに所属しながらヤッホーブルーイングのエア社員も務める高橋 遼が登壇。

19年連続で増収するヤッホーブルーイングの戦略と組織について議論しました。

登壇者
株式会社ヤッホーブルーイング よなよなピースラボUnit(CRM設計・CXデザイン)Unit Director 佐藤 潤(ジュンジュン)さん

株式会社トライバルメディアハウス マーケティングデザイン事業本部/ヤッホーブルーイング エア社員 高橋 遼(OSUNA)

「ビール製造・サービス業」のヤッホーブルーイングにとって、ファンはどのような存在か

「ビールに味を! 人生に幸せを!」というミッションと「クラフトビールを通じて日本のビール文化を変えたい」という想いを掲げるヤッホーブルーイング。なかでも佐藤さんは、長年同社が企画するファンイベントを運営してきた一人です。

ファンを大切にする企業姿勢が多くの共感を集め、2021年7月5日には佐藤さんの著書『18年連続増収を導いた ヤッホーとファンたちとの全仕事』が出版されました。自社の事業をビール製造業だけでなくサービス業と言うヤッホーブルーイングにとって、ファンはどのような存在なのでしょうか?

佐藤ファンは、『製品の世界観』『ベネフィット』『会社の価値観』に共感・支持してくださる方々だと考えています。ファンの方々の支持がなければ製品の成長はないですし、会社の成長もありません。スタッフのモチベーションも上げてくれますし、製品だけでなく会社のことまでも応援してくれるような存在です」

19年連続増収を達成し、過去最高益を更新する同社。その影には、ファンの方々とのつながりや絆が大きく影響しているようです。

そんなヤッホーブルーイングが初めてファンの方々と会ったのは、2010年に開催した第1回ファンイベント「宴」でのこと。それ以降もイベントの規模を大きくしながら、ファンと実際に会うことを重視してきたヤッホーブルーイングは、コロナ禍になってもオンラインなどを通して年間で1万人以上のファンにお会いしています。

佐藤「リアルイベントとオンラインイベントで満足度が変わることもありますが、それぞれの良さがあるので、イベントの規模(参加人数)だけを追わずに少人数でも接点を持ち続けることが大切だと考えています」

他社のクラフトビールも好きでいい、ヤッホーブルーイングが描く理想の顧客体験

ヤッホーブルーイングは、2017年ころからトライバルと共同で「よなよなエール FUN × FANプロジェクト」を開始。ファンの解像度を高めて、主力製品である「よなよなエール」をより愛されるブランドにすることを目的にしています。

プロジェクトでは、まず通販や流通、カスタマーサポートなどさまざまな部署・約20名を集めた顧客理解ワークショップなどを実施しました。そこでは、ファンはどのようにヤッホーブルーイングと出会うのか? 出会ったときはどのように感じるのか? どのように気持ちが高まっていくのか? など、顧客体験における接点と沸点を洗い出しました。

高橋「このプロジェクトで印象的だったのは、幅広い部署の方が集まると『お客さまには会ったことがないので分かりません』『どのような方か具体的にイメージできません』という方がいらっしゃることが多いのに、ヤッホーブルーイングはどの部署の方々もリアリティのあるファン像を描けていたことです」

顧客理解ワークショップの様子

参加した社員がリアルにファンをイメージできたのは、「宴」をはじめとしたイベントを通じてファンと会うこと、接することを重視してきたからこそ。そんなヤッホーブルーイングの顧客体験では、自社製品だけでなく、他社や世界のクラフトビールも含めてさまざまなクラフトビールを飲んでもらい、クラフトビール自体を好きになってもらうことが大切にされています。

通常、ブランドが顧客体験を考えていくと「自社ブランドをより好きになってもらうため」に設計されることが多いでしょう。一方、ヤッホーブルーイングの顧客体験は、国内・海外の他ブランドも含めて多様なビールを好きになってもらうことを前提としているため、自社ブランドだけで考えられていないという開放的なところも特徴の一つです。

さらに、高橋はブランドによる価値提供という点でも同社の強みを強調します。

高橋「マーケティングコミュニケーションにおいて、ブランド側から一方的に価値を提供することには限界があると考えています。ヤッホーブルーイングは『クラフトビールを楽しんでほしい』という想いを顧客やファンに共感してもらいながら、体験や価値を提案する『提案型のコミュニケーション』になっているのも魅力的なポイントです」

売上を追うと疲れてしまう? 顧客体験の評価指標とは

共感を中心とした顧客体験を軸にファンとの取り組みを続けているヤッホーブルーイングは、各マーケティング施策をどのように評価しているのでしょうか。佐藤さんは「売上は結果であり、後からついてくるもの」だと言います。

佐藤「KGIには『ミッションへの共感』と『もっと好きになってもらうこと(熱狂度)』を掲げ、後者の「熱狂度」は「NPS(推奨意向度)」と一緒に年に2回行なうアンケート調査によって測定しています。

企業として売上を追うことも重要ですが、ファンの方々の熱狂度を高めていくことを最も重視しています。てんちょ(ヤッホーブルーイング 代表取締役社長、井手直行)も『売上だけを目標にすると、みんな真面目だから頑張り過ぎちゃうと思うんだ。それが心配』と言っています」

アンケート調査は、ソーシャルメディアのフォロワーと通販のお客さまを対象に実施し、毎回2万人ほどの方が回答。イベントや通販などの施策による熱狂度とNPSが分かるだけでなく、熱狂度とNPSが高い方が年間の購入量が多いことも明らかになり、KGIを追えば結果的に売上(LTV)が増えることも確認しています。

佐藤「熱狂度や推奨意向度などの定量評価だけでなく、定性のコメントも含めて、計30~40くらいの設問を用意しています。アンケートによって、ブランドを好きになるポイントが『世界観』『機能価値』『情緒価値』『造り手への共感』という4つに分かれること、そしてこれらを経ていくと熱量が高まっていくことも分かってきました。こういった結果や分析を各コミュニケーション施策に落としています」

製品や企業を愛してもらえれば、売上は後からついてくることを証明し続けているヤッホーブルーイング。それを影から支える高橋も、「アンケート調査によって、ファンの接点と沸点がどのように変化しているかを明らかにし、顧客体験に活かすことが重要」と述べました。

これぞヤッホーブルーイング。成果を上げるための組織づくりに迫る

ヤッホーブルーイングの組織・チームづくりについて、「ファンとのコミュニケーションと組織づくりは切っても切り離せない関係」と佐藤さんは語ります。

最大の成果を上げるためには「打ち手の質と実行力を上げていくことが重要である」と述べる一方で、合意形成には多くの時間をかけているようです。

佐藤「皆んなで納得がいくまで話し合い、皆んなで目標を決めるからこそ、全員が納得した状態で目標と業務にコミットしながら着実に進むことができています」

そのための組織づくりとしてヤッホーブルーイングが大切にしているのは「ガッホー文化」「ヤッホーバリュー」「価値観」の3つ。この3つが守られていれば、スタッフやチームがさまざまな道を選択したとしても同じ目標に向かうことができます。

佐藤「ガッホー文化の『ガッホー』は、『頑張れヤッホー』の略なんです。究極の顧客志向を目指しながら、スタッフ一人ひとりが自ら考えて行動し、チームで切磋琢磨し、仕事を楽しみながら自身の個性をも伸ばしていくというもの。フラットな組織文化を築くことが特に意識されていて、私の『ジュンジュン』、高橋さんの『OSUNA』というニックネームも、年齢・性別・役職に関係なく意見を言い合えるようにするためのものです。

ヤッホーバリューでは『革新的行動』『造り手の顔が見える』『個性的な味』の3つを定め、ファンに支持されている理由として、さらには自社のコアコンピタンスとして重視しているものです。

そして、会社として絶対に譲れない決まりごととして、8つの価値観を設けています。『顧客は友人、社員は家族』や『同僚への敬意』、『取引会社への礼儀』など、同じ会社で働くうえでのルールのようなものです」

さらには、毎朝30分間雑談をするという「雑談朝礼」や出る杭を伸ばす「ストレングスファインダー」、定期的な1on1、管理職を決めるための「Unit Director立候補プレゼン大会」など、コミュニケーションの量と質を高めていくための取り組みについても伝えられました。

高橋「組織として多様性を重視しながらも、皆んなで合意形成をしていくというのは一見難しいようにも思えますが、コミュニケーションに多くの時間をかけることで打ち手の質と実行力を高めることができています。そのうえで、スタッフ一人ひとりが納得しながら意欲的に働くための数々の取り組みや仕組みが用意されているというのが、ヤッホーブルーイングの強みです」

ファンに寄り添うということだけでなく、究極の顧客体験を目指しながら、それを実行するための組織と仕組みづくりをアップデートし続けているーー。「クラフトビールといえばヤッホーブルーイング」という第一想起を獲得し続けている理由はここにあるといえるでしょう。

議論のまとめ

  • リアルイベントとオンラインイベントにはそれぞれの良さがある。どのような状況でもファンと接点を持ち続けることが大切
  • ブランドの価値を提供するのではなく提案する。そのためにブランドの想いに共感してもらう
  • 売上は結果。ファンの高い熱量を保ちながらコミュニケーションしていければ、売上は後からついてくる
  • 顧客体験を維持していくための組織には、細やかな取り組みや仕組みが必要

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