デジタル化して終わり? DX推進の先にある終着点は何か【第8回 池田紀行のマーケ飯】
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デジタル化して終わり? DX推進の先にある終着点は何か【第8回 池田紀行のマーケ飯】

代表の池田(@ikedanoriyuki)が、さまざまなフィールドの第一線で活躍されている方とご飯を食べながらカジュアルに議論する企画「マーケ飯」。

第8回のゲストは、ビッグデータ・IoT・AIについて豊富な知識を持ち、大手企業を中心にコンサルティングをされている鈴木良介さん。

「近視眼的なDXにとらわれるな!」というテーマで、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)によって多くの業界に変化が起きようとしているいま、デジタルの力は商品や企業のあり方をどのように変えるのか、またその変化にどう向き合うべきなのか議論しました。

こゆるぎ総合研究所 代表取締役 鈴木 良介
ビッグデータ・IoT・人工知能などのデジタルテクノロジが大好き。それらが、どのように事業や社会を変えていくのかを調べている。マーケターではない。日経クロストレンドにて、『明日から使えるIT小話』を連載中。
トライバルメディアハウス 代表取締役社長 池田 紀行
1973年 横浜出身。ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手クライアントのソーシャルメディアマーケティングや熱狂ブランド戦略を支援する。日本マーケティング協会マーケティングマスターコース、宣伝会議講師。『キズナのマーケティング』『ソーシャルインフルエンス』(アスキー新書)、『ソーシャルメディアマーケター美咲』(翔泳社)、『次世代共創マーケティング』(SBクリエイティブ)など著書・共著書多数。鎌倉稲村ヶ崎在住。

コスト削減にとどまらないDX

池田:今日は、ビッグデータ・IoT・AI分野に造詣が深い鈴木さんと、DXが今後ビジネスをどうドライブさせるのか議論していきたいと思います。よろしくお願いします!

鈴木:よろしくお願いします!

池田:一般的なDXの目的は、デジタル化や業務効率化であると考える人が多いと思います。ただ、今回の対談の結論がそこに行き着いてしまうと面白くないので(笑)、DXのその先まで議論していきたいです。ずばり、DXがビジネスにもたらす本質的な価値とは何でしょう? デジタル化や業務効率化の先には何があると鈴木さんはお考えですか?

鈴木:僕も「DXって何を変えることなのかな?」とずっと考えていたんですが、究極的には「自社の社会的役割」まで変えてしまうことだと気が付きました。DX=デジタル化はあくまでビジネスにおける手段の1つに過ぎないんです。ただ、デジタルそのものの変化や進化がとても激しいので、DXを適切に推進するために企業は自分たちの存在意義まで問う必要が出てきた。

「うちの会社は何のために社会に存在しているのか(存在意義)」が変われば、「お客さんにどうなってほしいのか」ももちろん変わります。流行り言葉で言えば、前者が「パーパス」、後者が「カスタマーサクセス(以下、CS)」。このパーパスとCSの変化を実現するための強力な武器が「デジタル」です。

池田デジタルがパーパスにまで影響を及ぼす存在になっているというのは面白いですね! CSはここ数年、BtoB領域とりわけSaaS業界で注目されているキーワードです。購入してもらって終了、ではなく中長期的にLTVを向上させるために「顧客の成功」が必要という考え方。CSがどのように関連するのかもう少し詳しく聞いてもいいですか?

鈴木:ネットワーク技術やセンシングデバイスの発達といったIoTの進化によって、顧客自身が気にも留めない商品(サービスも含む)の使用頻度や注文頻度などのデータが取得できるようになりました。また、企業から顧客へ働きかけるコストも下がりました。蓄積したデータを活用することで顧客の日々の行動変容を促すことができるようになったからです。

日々の行動変容を積み重ねてもらった結果、「(顧客に)どういう状態になってもらいたいのか」という目的の設定がCSと呼ばれるものなんじゃないのかな、と思います。目的がないと、日々どういうコミュニケーションをしたらいいのかわからないので、DXとパーパスの間には顧客の成功(CS)があると考えています。

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池田:なるほど。CSの考え方はBtoCにも広がるポテンシャルがあるということですか。

鈴木:そうですね。つい最近僕が登壇した講演でも、参加者の反応を見ると、BtoCでCSの注目が高まってきているなと感じました。

池田さんもよくセミナーでお話しされていますが、世の中の多くの商品がコモディティ化し、品質で競争することが難しくなっている状況下では「じゃあ何で勝負するの?」という部分を企業がしっかり考えなければいけません。その時に、デジタル技術を通じて取得したデータを活用して新しい価値が生み出せれば、自社の商品を選んでもらえる可能性も高くなります。

池田:データを活用して、顧客のニーズを見つけ、それに刺さる価値を生み出すと。たとえば、どのような商品があるんでしょうか?

鈴木:最近私がしびれた例でいうと、コクヨの「しゅくだいやる気ペン」。これは鉛筆に取り付けるデバイスで、宿題をすると(デバイスに取り付けた鉛筆が動くことで)やる気パワーが溜まり、そのやる気パワーを保護者のスマートフォンアプリと連携させてアプリ内のゲームに活用できるという仕組みです。

鉛筆は、商品ごとの差がほとんどありません。文字を書くことにおいてはどの鉛筆を使っても一緒。では、文具メーカーにとって顧客の成功はどんなところにあるか? コクヨが目を付けたのは、保護者にこれ以上「宿題をやりなさい」と言わせない、ということでした。子どもが前向きに宿題をすることこそが文具を買う人の「成功」だと考えたのではないでしょうか。

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池田:面白いです! 顧客(今回の場合は保護者)の成功は、子供に鉛筆を使わせることではなく、いかに「宿題をやりなさい」と言う時間を減らすことができるかということだったと。

鈴木:そうです。何が顧客にとっての成功なのかを設定するにはいろんなパターンがあり得ますよね。小学生じゃなくて、建築士や芸術家を応援してもいいわけですから。でも、コクヨは小学生とその親に向かい合った。そこに自社の役割を設定したんだと思います。

これまでのBtoC企業は、商品を提供するのみで商品の効果的な活用方法を見いだすことは顧客に丸投げしていましたが、データを活用することによって顧客の成功を高めるような“伴走”ができるようになりました。こうしたデータ活用がDXの本質ではないでしょうか。

池田:なるほど。そう考えると、CSにおいて顧客の成功をどう定義するかという分岐、さらにそれをどのような形でパーパスにつなげるのかという分岐も発生しますよね。商品のコモディティ化は避けられないですが、DXによる企業の成功はいろいろな形がありそうです。マルチエンディングが考えられる状況になるわけですね。

鈴木:デジタルを活用して、どんなパーパスのもとどんな成功を実現するのか、というストーリーは一通りではありません。池田さんがおっしゃっているマルチエンディングは、まさにピッタリな表現ですね! それをチャンスと捉えるのか、よくわからない不安な時代と捉えるかは企業によって差がありそうです。

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みんなが「お金持ち」の待遇を受けられる世界

鈴木:企業は「顧客に成功してほしい」→「そのためにデジタルが得意な個別最適で高頻度な伴走をしよう」→「じゃあどう伴走するのか?」と考えたとき、いくつかのパターンがあると思うんです。ざっくりですが、①執事 ②コーチ ③太鼓持ちという3つに分かれるんじゃないかなと。

池田:韻を踏んでいるから覚えやすいですね! それぞれどのような役割を指しているのでしょうか?

鈴木:「①執事」は、具体的な商品名でいうと「ルンバ」ですね。今まで自分がやっていた作業を機械に置き換えるようなこと。単純に自動化ともいえます。

「②コーチ」は、ダイエットや楽器の練習といったスキル習得などに関わること。その人の苦手なことやクセになっている行動を収集し、最適なソリューションを提案します。最終的には、その人自身が動かなければいけないので、あくまで道筋を示してあげるようなものに限られます。

「③太鼓持ち」は、先ほど話した「しゅくだいやる気ペン」が当てはまりますね。子どもが宿題をすることを褒めたり、行動に見合った報酬が返ってきたりすることで、その商品を使い続けたいと思ってもらえるようなものです。

池田:なるほど……。そうしたCSが充実していくと、顧客の生活はどのように変化しますか?

鈴木:分かりやすく表現すると「金持ちごっこ」が実現できます。多様なデータを収集することでその人の好みや特性が明確になり、すべての顧客をVIPのように丁重に扱えるようになる。大量のデータを用いてAIが認知と判断を正確に代行してくれるので、顧客ごとに専任サポートをつけるような状態が実現できるというわけです。

池田:昔からVIPには、身の回りのお世話をする執事や習い事を教える専属のコーチがいましたよね。そういう役割の人たちが商品に形を変えて、多くの人に提供されるようになるということですか。

鈴木:おっしゃる通りです。AIと聞くと「自分たちの仕事が奪われる⁉」といった取り上げられ方をしますが、「仕事がなくなる」「10ある仕事を全部AIに置き換えて終わり」という考え方はちょっとダサいし面白くない

10ある仕事のコストが、AIによって0.1になったら? AIの導入によって10人雇ったのと同じ状態になったら? という発想をするのが正しいと思います。かかるコストが安くなれば、資源を今よりもっとじゃぶじゃぶ(大量に)使えるようになるので。

そうしてコストを下げ、使える労働力が実質千倍になった先で何ができるのかを考えるべきです。

池田:資源を安価にかつ大量に投下できるようになるから、顧客に対して新たな価値を創造しつつ、パーパスを明確にしていくことが企業のDXの真骨頂ということですね。

企業の存在意義を変えられる、デジタルの可能性

池田:AIを導入したり、データを有効活用したりすると、企業の事業そのものが変化していく可能性もありますよね。

パッと思いつくのは、保険。従来は、将来起こるかもしれない不透明なリスクに対してお金を払い続けていましたが、健康状態に関するデータを常に取得できるようになれば、早めに最適な処方箋を出して大きな健康リスクを回避するようなサブスクリプション形式に変わる可能性がある。

鈴木:まさにそういうサービスを保険会社が始めています。個人の健康にまつわる取得可能なデータが増えたことにより、「小切手をくれる人」という保険のあり方を変えるべきなのではないかという議論がここ5年くらい行われてきました。その結果、保険は「ずっとそばで見守る人」という形に変わってきているんです。

被保険者は、大きな疾病などの不慮の事態に対して保険会社から保険金(小切手)を貰い、医療費用や遺族にかかる負担を相殺していました。ただし、これは不慮の事態が予測できなかったから成り立っていた仕組み。これからは顧客の生活に関わるデータが溜まっていくので、被保険者を常時見守ることができるようになります。するとどうでしょう? 健康に関する動向を常に把握して改善に関するアドバイスや処方ができるようになります。

不慮の事態を回避できるようになれば、疾病に対して保険会社が高額な保険金を支払うコストを下げられますし、被保険者は常に健康でいられるという価値を提供できる。こうして、保険というビジネスモデルや顧客が保険に求めるニーズも変わってきているわけです。

池田:なるほど! DXによって、保険会社のパーパスが(不慮の事態の)事後対応ではなく、予防に置き換わっていると。

鈴木:企業が社会に提供できる(すべき)価値の根本をDXが変えられたらとても面白いですよね。であれば、社会における企業の新しい社会的役割を市場のなかに見出すのが、マーケターにできることではないでしょうか。

池田:社会や生活者との接点が強いマーケターは、DXを通じて未来を見ることで企業の次の成長に貢献できる存在だということですね。

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結局のところ顧客起点かどうかが鍵

鈴木:本業が成熟する中で自社の役割を見直し、その実現のために新しいテクノロジーを活用するという事例は、既に1980年代にあるんです。

池田:そんなに前からあったんですか! どういった内容でしょう?

鈴木:メキシコのセメント企業であるセメックスの話です。1980年代にはすでにセメント業界は成熟しきっていて、いかに低価格で大量に売るかが問われていました。でも、1985年ごろ新社長が就任した際にKPIが大きく変わったんです。

それまでKPIは販売するセメントの量(立米:㎥)を設定していましたが、発注から配達のリードタイムをKPIに設定するようになりました。

セメントは工事に必要な量しか買われないですし、品質やサービスが気に入ったからといって倍の量を買ってもらえることもあり得ません。また、製造されてからどんどん品質が悪化していくという特徴があります。なので、工事現場にとってはセメントを使いたいタイミングで必要量を入手できる点が重要です。そこで、配達までのリードタイムをKPIに設定することが顧客の一番喜ぶ項目なのではないかと考えたそうです。

当時のセメント会社には珍しくトラックにトランシーバーとGPSを搭載して、最適なルート選択をしたり新しい発注を運転手に随時伝えたりして、配達までのリードタイムを少しでも最適化できるように工夫していたとか。同業他社ではなく配送業やピザ屋をベンチマークしていたといいます。これは当時活用できるデータを最大限活かしたDXといえますね。

セメックスは、いまや世界第2位のセメント企業。顧客起点の発想を続けていった結果、いまでは建設における中核的パートナーになることへとパーパスが変化していて、セメント製造だけでなく建設時の用地選定といったコンサルティング事業にまでビジネスを拡大しています。

池田:顧客起点でマーケティングを考えていたら、ビジネスモデルまで変化してしまった。DXを活用すれば、こうした変化はどんどん起こせる予感がありますね。

鈴木さんのお話は、いつ聞いても面白い。事例の引き出しが多いし、話し方もとても上手だと思うんですけど、鈴木さんはご自身のあり方やパーパスについて意識していることはあるんでしょうか?

鈴木:僕のKPIは、僕の話を聞いた人がその話を他の誰かにしてくれることなんです。お客さんが、会社の飲み会で披露してくれるとか。せっかく仕入れた情報は、誰かに伝えてもらわないと意味がない。車を買ったのに車庫に置きっぱなしみたいなものです。

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池田:そうしてみんなから重宝される存在になっていくんですね。僕はよくビジネスモデルの話をいろんな人から聞いたり、本を読んだりしてますが、いずれも鈴木さんが説明してくれる時ほど感動しないというか……。鈴木さんは一つのビジネスモデルを抽象化して、あらゆる業界のビジネスモデルの解説にも転用しているところがすごいんですよね。そうした能力を身につけるには、どうすればいいんでしょう?

鈴木:自分がいる業界だけなく、他の業界にも面白い話は山ほどあるので、それを探すようにしてます。異業種の人に会うことも良いのでしょうけれど、僕は極度の人見知りなので専門誌を読むようにしていて、最近だと『月刊 養豚界』が面白かったです(笑)。そうした専門誌で得た情報を「これは、あのお客さんに紹介したら役に立つんじゃないかな」と考えていくと、面白さの真髄がわかってくる気がします。

池田:IoTやAIの専門家が『月刊 養豚界』を購読しているのがすごい(笑)。でも確かに、得た情報を誰かに喋る、もしくはnoteに書くなどしてアウトプットすると、似た話題が出た時に反射的にその情報が思い浮かび、話があちこち飛ぶような会話であっても的確な事例を提示することができるようになりますね。

以前、鈴木さんから教わった「累積矢面時間(※)」にも関わってきそうです。

※目の前の仕事を自分ゴトとして捉え、クライアントとの矢面に立ち成功・失敗の経験を積んだ時間。

鈴木:累積矢面時間を増やすには、とにもかくにも「締切」が大事です。専門外の勉強は始めちゃえば面白いですけど、日々の雑事に忙殺されているとサボってしまう。そんなときには、懇意にしているお客さんに「とびきり面白い話があるから、来週1時間くれませんか」と伝えてアポを取るんですね。そうすると、何が何でも面白い話を見つけなければならないので、泣きながら勉強します。この詳しくない領域でアポを取って、締切に追われて勉強する方式はぜひおすすめしたいですね。

池田:なかなかストイックな勉強法ですが、確かに累積矢面時間を増やすことにはつながりますね。 やはり、鈴木さんとは定期的に飲んで新たなネタを仕入れたくなります。これがCSですね(笑)。またぜひお話ししましょう!

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鈴木:ぜひ、よろしくお願いします!

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「近視眼的なDXにとらわれるな!」というテーマで展開された今回の議論。DXの本質やビジネスモデルの変化、新しく提供できる価値のポイントなど示唆に富んだ議論だったのではないでしょうか。自身の市場価値の高めるために累積矢面時間を積み重ねていくということも、ぜひ明日から意識してみてください!

「マーケ飯」では、今後もさまざまなフィールドの第一線で活躍されている方と池田のトークを発信していきますので、どうぞご期待ください!

過去の「マーケ飯」の記事は、以下のマガジンよりご覧いただけます。

▼池田のTwitter・noteアカウントはこちら
Twitter @ikedanoriyuki
note https://note.com/ikedanoriyuki

今回収録で伺ったお店は、恵比寿にある創作和食のお店「春秋ユラリ」さん。美味しさもさることながら、盛り付け方も非常に美しく素敵な料理を楽しむことができました。撮影にご協力いただき、ありがとうございました(写真はコース料理の和牛の炭火焼)。

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春秋ユラリ
東京都 渋谷区 恵比寿南 1-7-8 恵比寿サウスワン B1F
https://tabelog.com/tokyo/A1303/A130302/13051136/

※新型ウイルス感染症防止対策に配慮のうえ収録を行っています。

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