「鬼滅の刃」名言から読み解く言葉の力
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「鬼滅の刃」名言から読み解く言葉の力

2020年を象徴した1つが「鬼滅の刃」。老若男女を巻き込んで大きな話題となりました。

2020年5月18日発売の雑誌「週刊少年ジャンプ」にて連載が終了、10月16日には劇場版「鬼滅の刃」無限列車編が公開。12月4日に単行本最終23巻が発売され、シリーズ累計発行部数は1億2000万部突破を発表。

そして、年末の12月28日には、劇場版が歴代興行収入1位を獲得したことも発表されました。配給元の東宝は、1月12日に業績を上方修正したそうです。

ブームの要因については、さまざまな考察がなされていますが、ソー文研でもエンタメ情報を届けるメディア・シネマカフェに「『鬼滅の刃』ブームはどのように広がっていったのか?ツイートから分析」という考察記事を寄稿しました。

人々によってブームは生み出されます。一方、ブームが人々に影響を与えることもあるかもしれません。そして、「鬼滅の刃」のような魅力的なストーリーには、緻密なシナリオだけでなく、人を惹きつける「言葉」があります。

果たして「鬼滅の刃」から生み出された「言葉」は、どのように人々に浸透し、影響を与えたのか。Twitterのクチコミの観測を通じ、考察したいと思います。

煉獄さんによる「名言」の浸透力

まずは、話題の映画における主役であり、映画の中でも名言を多く残している煉獄杏寿郎(以下、煉獄さん)の名言について調べてみました。

映画公開前後の1カ月間に「心を燃やせ」「よもやよもやだ」「責務を全うする」「穴があったら入りたい」がツイートされた件数は以下のとおりです。

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「心を燃やせ」「よもやよもやだ」「責務を全うする」「穴があったら入りたい」のオーガニックツイート(※1)を集計/集計期間:公開前は2020年9月16~10月15日、公開後は2020年10月16日~11月15日

全体的に増加していますが、特に「よもやよもやだ」は480件から20,640件に増え、その増加率は43倍と大きな伸びを見せました。

漫画・アニメの名言はファンが真似て発言していたり、まとめサイトなどに掲載されたりしていますが、「鬼滅の刃」も例外ではなく「名言」が強い浸透力を持っていることが確認できました。

アニメ版を代表する名言の浸透力

「鬼滅の刃」には、煉獄さん以外にも魅力的なキャラクターがたくさんいます。

作品全体を通した主人公である竈門炭治郎、妹の竈門禰豆子、仲間の我妻善逸、嘴平伊之助。「鬼殺隊」のリーダー的存在である、煉獄さんを含む9名の「柱」たち。そして、鬼殺隊の新人教育を担う「育手」。

そして、実は映画公開前のアニメシリーズにおいても、名言がすでに生まれていました。煉獄さんと同じく、鬼殺隊の柱の1人である冨岡義勇の「生殺与奪の件を他人に握らせるな」と、竈門炭治郎を育てた鱗滝左近次の「判断が遅い」の2つの名言をピックアップし、調べてみました。

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「生殺与奪の件を他人に握らせるな」「判断が遅い」のオーガニックツイート(※1)を集計/集計期間:2018年1月~2020年12月(※2)

TVアニメが放送される前年の2018年、アニメ放送年となる2019年、映画公開年である2020年において、「生殺与奪の権を他人に握らせるな」は2018年から49倍の15,270件に、「判断が遅い」は8.0倍の43,900件となりました。

「判断が遅い」のようなシンプルなものだけではなく、「生殺与奪の件を他人に握らせるな」という少し長い名言についてもツイート数が伸びているのはとても興味深いです。

名言を構成する「よもや」「責務」「生殺与奪」

「よもやよもやだ」「責務を全うする」「生殺与奪の権を他人に握らせるな」などの名言は、それ自体はセリフですが、これを「よもや」「責務」「生殺与奪」などの単語まで要素分解すると一般的に使われる言葉となります。

名言の軸となる単語そのもののツイート数は増えているのでしょうか。「よもや」「責務」「生殺与奪」の3年間のツイート数の推移について調べてみました。

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「よもや」「責務」「生殺与奪」のオーガニックツイート(※1)を集計/集計期間:2018年1月~2020年12月(※2)

2018年から2020年の推移として、「よもや」1.5倍、「責務」1.5倍、「生殺与奪」5.5倍と、名言から抜き出した単語の利用も増えていることがわかりました。

・名言だけでなく、言い回しがアレンジされたものも増えている
・鬼滅から逸脱した文脈でも、単語の利用が増えている

の2つの類型があると想定され、いままでは日常の言葉として選択してこなかった「よもや」や「責務」を会話の中に採り入れるなど、日常会話での言葉の選定に影響を与えている可能性が示唆されています。

「判断が遅い」の意味の変遷

鱗滝左近次の「判断が遅い」は鬼滅の刃の名言である一方で、一般的な言い回しにも使われる言葉です。この「判断が遅い」という言葉が名言として浸透する中で、一般的な言い回しでの使われ方に変化が生じていてもおかしくはないように思います。

そこで、「判断が遅い」とともに語られる言葉(関連語)が3年間でどのように推移しているのかを調べてみました。

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「判断が遅い」とともにツイートされた関連語をランキング形式で表示/集計期間:2018年1月~2020年12月(※2)

2020年は「鬼滅の刃」(2位)、「鱗滝」(24位)、「炭治郎」(27位)など、鬼滅の刃に直接関係する言葉が多く見られます。一方、「緊急事態」(16位)、「日本政府」(17位)など、新型ウイルスに関連した政府の対応について語っていると思われるものも散見されました。

ちなみにランキング1位の「お前」は、鱗滝左近次の名言「判断が遅い」が登場するセリフの2文目に含まれる言葉です。

「判断が遅い。お前はとにかく判断が遅い。朝になるまで鬼にとどめを刺せなかった。今の質問に間髪入れず答えられなかったのは何故か?お前の覚悟が甘いからだ。妹が人を喰った時やることは二つ。妹を殺す、お前は腹を切って死ぬ。鬼になった妹を連れていくというのはそういうことだ」という鱗滝左近次の長セリフの中でも「判断が遅い。お前はとにかく判断が遅い。」までを1セットとして言及している人が多いことが推察されます。

まだTVアニメが放送される前の2018年はというと、「中田英寿」(3位)、「日本代表」(4位)、「監督交代」(8位)、「監督解任」(9位)、「ハリルホジッチ」(11位)、「ボール」(14位)、「サッカー」(26位)など、サッカーに関するものがほとんどであり、鬼滅の刃に直接関係するものは50位以内では「炭治郎」(25位)のみとなりました。

そして、アニメ放送年である2019年については、「鬼滅の刃」(2位)、「炭治郎」(5位)というような鬼滅関連の言葉が上位にランクインしつつ、「ボール」(13位)、「パス」(35位)、「試合」(46位)、「プレー」(47位)と、サッカー関連のものも混在する形となりました。しかし、2020年には直接サッカー関連の言葉と結びついているものは50位以内では確認できません。

「判断が遅い」という言葉の浸透が3年で8.0倍に増えたのは、他の言葉の浸透度をみても「鬼滅の刃」の力による所が大きいと推察されます。そして、「判断が遅い」が語られる総量が増える中、同じ言葉であるにも関わらず3年間の推移の中で語られる文脈が「サッカー」から「鬼滅の刃」に変遷していることが確認できました。

「鬼滅の刃」が持つ言葉の力

本記事において、映画公開により煉獄さんの名言である「よもやよもやだ」「責務を全うせよ」「命を燃やせ」の浸透が推進し、そして3年かけて冨岡義勇の「生殺与奪の件を他人に握らせるな」や鱗滝左近次の「判断が遅い」といった名言の浸透が進んだことを観測しました。その上で、名言の軸となる単語である「よもや」「責務」「生殺与奪」においても、同じく浸透していることがわかりました。

また、「判断が遅い」の関連語の分析から、「サッカー」から「鬼滅の刃」に使われ方がシフトしたことが観測されました。「判断が遅い」という言葉を耳にし、口にするときに想起されるイメージに影響を与えるとしたら、ある種の「認識変容」が起きたと言えるかもしれません。

これらを踏まえますと、「鬼滅の刃」というコンテンツは名言を浸透させただけでなく、会話の中での「判断が遅い」に見られたような言葉の使い方にまで影響を与えた可能性が示唆されました。コンテンツが与える言葉の影響力については、今後も継続して観測・考察を続けていきたいと考えます。

※1 オーガニックツイートは、リツイートなどによって拡散されたツイートを除き、一次発信されたツイートのみを指します
※2 本記事において「2018年」は2018年1月1日~12月30日、「2019年」は2019年1月1日~12月30日、「2020年」は2020年1月1日~12月15日を指します
※本記事のデータは全て、ソーシャルリスニングツール「ブームリサーチ」で算出しています
鈴木 崇太(すずき そうた)
ソー文研 文化観測士。制作会社にてプロモーション・イベントのディレクションを経験後、 2011年にトライバルへ入社。SNSを基軸とした企業のコミュニケーション設計に従事する。SNSと街の観察に基づく「生活者の気持ちに寄り添った」企画の設計を得意とし、2018年には「ポッキー&プリッツの日」のプロモーション施策であるTikTokキャンペーン「#ポッキー何本分体操」を手がけた。
Twitter @suzukinosonzai

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