ファンダムとは? 熱狂と独自文化を形成するファンダムに向けたマーケティングを解説

作成日:2020年10月9日

この記事では、企業がブランドや商品のプロモーションとして、芸能人やタレント、アーティストなどの著名人や有名なエンターテインメント作品とコラボレーションする際に、単なるマス広告やタイアップで終わらせないマーケティングの手法として、ファンダムマーケティングをご紹介します。

ファンダムの定義のほか、ファンダムマーケティングの考え方や実施するうえでのポイント、事例などを解説します。ブランドや商品のマーケティングやプロモーションを担当している方は、ぜひお役立てください。

ファンダムとは

ファンダムと聞くと、K-POPや韓国アイドルのファンをイメージされる方もいらっしゃると思います。ファンダムは、ファンの中でも特に好意の対象に熱狂し、独自の文化を形成している人たちのことを指します。

ファンダムが熱狂する対象は、主に芸能人やアーティスト、アイドルなどの著名人や、音楽、ドラマ、アニメ、漫画、小説、スポーツなどのエンターテインメント(以下、エンタメ)に関連する人やキャラクター、作品自体などが挙げられます。

こうしたことに所得や時間を費やしている以上に、エンタメに関わる著名人やキャクター、作品に対して「生きがい」を感じている方々のことをファンダムと呼称します。

例えば、2020年10月に公開された人気漫画「鬼滅の刃」の映画に関するツイートでは、興行収入に貢献しようと呼びかける内容が散見されました。ほかにも、駅構内に自分の好きなアイドルを応援するための広告を出稿したり、地方だけでなく海外のイベント・ライブに遠征したりする人たちがいます。こういった活動に生きがいを感じているのがファンダムです。

トライバルメディアハウスが2022年3月に実施した「“推し”の情報収集・発信やタイアップに関する実態調査(以下、推し活調査)」の結果によると、好きなエンタメコンテンツがある人のうち52.4%には、何らかのエンターテインメントコンテンツの中に“推し”が存在しており、ファンダムと呼ぶことができる人たちであることがわかっています。

また、そうしたファンダムの中には、“推し消費” と言われる、著名人や作品に関する商品やサービスを「応援したいから買う」「(多少値段が高くても)気にせず衝動買いする」人が一定数います。ファンダムに近い人であるほど、好きな対象に関するモノやサービスに興味を持ちやすく、好意度や購入意欲を高めやすいと言えるでしょう。

auコマース&ライフが運営する総合ショッピングサイト『au PAY マーケット』では、2022年4月に人気声優の蒼井翔太さんを起用した「耳福ホテルプラン」施策を実施し、そのチケットは販売開始後、28秒で完売(※1)。声優のファンダムによる購買行動が可視化されたとも言える事例です。

※1 参考: 蒼井翔太、岡本信彦が「おはよう」 声優起用のホテルが秒で完売丨日経クロストレンド丨2022年12月15日

ファンダムマーケティングとは

トライバルメディアハウスは、企業やブランドがアーティストやクリエイター、エンタメ作品やキャラクターとコラボレーションし、ファンダムから共感を得ながら好意度や購入意向を高めるマーケティングの考え方を「ファンダムマーケティング」と呼んでいます。

コラボレーションと聞くと、企業がブランドや商品をプロモーションする際に、人気アーティストやタレントなどの著名人をキャスティングしたり、人気エンタメ作品を起用するケースが想像されると思いますが、そうしたタイアップ施策とファンダムマーケティングは似て非なるものです。

ファンダムマーケティングは、エンタメとコラボレーションし企業やブランドにとって “意味のあるクチコミ” を増やしていくことで、ファンダムだけでなくファンダム以外の方々へも波及し、意識・態度変容までをも狙うことができるという手法です。意味のあるクチコミとは、エンタメに関してだけでなくブランドについても言及されたもので、ブランドに関するUGCを増やしていくことにつながります。

近頃もよく見かける人気の著名人や作品などとブランドのタイアップは、一時的な話題化や売上の増加が期待できますが、ブランドの認知獲得や興味喚起は難しく、購入するのはその著名人や作品のファンに限定されてしまうなどの懸念点があります。

ファンダムマーケティングは、ファンダムを起点に、より広い方々にリーチできるというだけでなく、ブランドへの認知・関心度を高め、さらには意識・態度変容までをもさせることができる手法なのです。

なぜファンダムマーケティングか

ファンダムマーケティングについて、もう一点大切なポイントがあります。メディア環境が変化し続けている現代は、あらゆる情報であふれているため、生活者は情報の取捨選択から可処分時間の使い方まで日々選択を迫られています。

また、あらゆるモノやコトでコモディティ化が進み、多くの業界で熾烈な価格競争が起きている今、そこから抜け出すためには、あらゆる企業・ブランドのなかで最初に思い出してもらえる(想起させる)ポジションを獲得する必要があります。

多額の広告予算を投じて生活者との接触面を増やすと、企業やブランド、商品、サービスを知ってもらうことはできますが、そこから一歩踏み込んで興味を持ってもらったり、記憶に残してもらったり、ニーズが顕在化したときに思い出してもらうのは難しいでしょう。

生活者のなかでも、特にファンダムは可処分時間をエンターテインメントに、可処分所得を推しに費やしています。そうした方々に向けて、企業がエンターテインメントや推しの対象とコラボレーションする手法をとることで、好きな対象に関するモノやサービスに興味を持ってもらい、好意度や購入意欲を高め、思い出してもらいやすくすることができます。

さらにはファンダムを起点に、他の生活者にも施策を広げられるということから、一般的なマス広告やタイアップ施策とは別の、想起や意識・態度変容への効果が高い手法として注目を集めています。

ファンダムマーケティングのポイント

ファンダムマーケティングを実施するにあたり、ポイントとなるのは「ファンダムへの深い理解」「ファンダムとブランドの文脈を汲み取ること」、そして「継続性」の3つです。

ファンダムへの深い理解

ファンダムマーケティングにおいては、ファンダムが置かれている状況(社会的な立ち位置や感情などの状況)、さらにはファンダムが求めているものなどのインサイトを、ソーシャルリスニングなどで深く把握することが欠かせません。

プロモーションやコンテンツを企画する側が作品やコンテンツのファンダムになる(のめり込む)ことにより、それらを知ることも有効でしょう。対象とするエンタメ作品や人物などを取り巻く多くの文脈を理解することで、ファンダムがハマっているトリガーを探り、ファンダムが「面白い」と感じることを軸に企画を思考することができます。

ファンダムとブランドの文脈を汲み取ること

ファンダムについて深く理解したうえで、彼らの感性に訴えかける企画を設計することで、実施後のUGCを増やし、記憶に残る施策にすることができます。

このときに注意しなければいけないのは、ファンダムはあくまで「自分の好きなモノが好き」なのであって、そこに関わるブランドや商品のことも自ずと好きになるわけではないということ。

つまり、著名人や作品を起用すれば自然とファンダムが受け入れてくれるのではなく、商売目的であることがあからさまに見え隠れしたり、違和感があったりすると、反対にブランドや商品が嫌われてしまう可能性もあります(それほど人や作品への愛が深いとも言えます)。

そこで、エンタメ作品や人物などのコンテンツを取り巻く多くの文脈と、ファンダムに存在する文化や共通言語、会話における文脈を汲み取り、その中で受け入れられるようにブランドや商品について伝える(登場させる)ことがポイントです。

ファンダムとブランドの文脈を汲む

継続性

ファンダムとブランドの文脈を汲み取ったプロモーションを実施すると、一時的にブランドに対する好意度や購入意向が高まり、すぐに売上が増えるケースも多いと思います。

そこがファンダムマーケティングの強みではあるものの、そういったプロモーションも1度の実施のみではブランドへの継続的な意識・態度変容を狙うことは難しい場合も多いです。

継続的に実施することで、ブランドや商品がファンダムの日常的なクチコミやコンテンツの一部となり、文化や文脈に混じり、両者の共通部分を広げていくことができます。

ファンダムから引き出すべきリアクションとは

ファンダムに向けたコンテンツは、以下のリアクションを引き出すような内容にすることもポイントです。

ファンダムから引き出すべきリアクション

このようなリアクションを引き出すことがクチコミの生成において重要であり、引き出しながらブランドの情報を届けることで、ファンダムがブランドに興味を示してくれやすくなるでしょう。

ファンダムがコラボレーションしたブランドに対して興味を示すことが分かる事例として、以下のツイートをご紹介します。1つ目はエンタメとコラボした企業に対する内容で、2・3つ目のツイートは1つ目のツイートに対するリプライです。

ファンダムはコラボレーションしたブランドにも興味が湧く、想起される、利用する、という点について、ファンダムから「あるある」「わかる」と多くの共感を集めました(マジレジェとは『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEレジェンドスター』というアニメ作品の略称)。

また、クチコミを増やしていく点でいえば、企画者自身が瞬時に、かつ3つのリアクション(コメント)が思いつくかどうかというのも重要になります。企画する側が思いつかないようであれば、タイムラインを高速で流し見している生活者はもっと思いつきません。皆さんも「この記事、面白いからシェアしたいけれど、コメントが思いつかない……」と思って、スルーしたことはありませんか?

「分かってるね!」「そうきたか、面白い!」などの複数のリアクションを引き出せる企画になっているかどうかに加え、それが瞬時かどうかについても、ぜひ確認してみてください。

ファンダムマーケティングの事例

ここから、ファンダムに向けたプロモーション事例を3つご紹介します。

1)オーディオテクニカ 完全ワイヤレスイヤホン「ATH-ANC300TW」

音声広告(Spotifyのデジタルオーディオ広告)に声優を起用した事例で、トライバルが実際にご支援したプロモーションです。

声優がファンダムから愛される理由の一つである「声」を、Spotifyを通じてファンダムに届けるというアイデアで企画しました。施策後にブランドリフト調査を行ったところ、広告の接触者と非接触者とでは好意度と購入意向に10倍の差があり、ファンダムに対する施策としての効果の高さが分かります。

またX(旧Twitter)には、広告であるにも関わらず好意的に感じているツイートやオーディオテクニカに感謝するツイート、そして実際に商品を店頭に見に行ったツイートなどが見受けられ、前向きなクチコミの生成にも貢献できていることが分かります。

2)森永乳業 「オレ様に、甘えちゃいな。」

栄養バランスオレ「Miloha(ミロハ)」のプロモーションとして、CMに「新テニスの王子様」の人気キャラクター「跡部景吾」を起用した事例です。

公開日にはこのCMに関連したキーワードがXでトレンド入りしただけでなく、森永乳業が「跡部景吾」を(あたかもキャラクターではなく実在する人物のように)キャスティングしたことが話題になりました。

森永乳業のプレスリリースに「跡部景吾」がCM撮影後のインタビューを受けたようなコメントを紹介していたり、映像の構成を俳優の倉科カナさんが出演した同シリーズのCMと同じにしたりしたことも、プロモーションが話題化した理由の1つだと考えられます。跡部景吾のファンダムに「分かってるね!」や「そうきたか!」と思ってもらえた事例ではないでしょうか。

3) リクルートホールディングス「Follow Your Heart & Music」

同社のビジョンである「Follow Your Heart」をテーマに、新進気鋭のアーティストとコラボした施策。新たな一歩を自らの選択で踏み出す若者を音楽の力で応援した事例です。

企画の趣旨に賛同したアーティスト5組が参加し、「挑戦」をテーマにしたミュージックビデオを作成・公開。ミュージックビデオは各アーティストが希望したクリエイターとそれぞれ共演した内容になっています。

アーティストの世界観とリクルートのビジョンがマッチしたプロモーションに、アーティストのファンダムからは好意的なクチコミが寄せられました。

https://twitter.com/taaa420/status/1240955273486860288?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1240955273486860288%7Ctwgr%5E%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fnote.tribalmedia.co.jp%2Fn%2Fn49e121f19ab7

ファンダムマーケティングの可能性

この記事では、

・ファンダムはファンの中でも特に好意の対象に熱狂し、独自の文化を形成している人たちを指すこと
・ファンダムから共感を得ながら好意度や購入意向を高める「ファンダムマーケティング」という考え方があること
・ファンダムマーケティングを実施するにあたっては、「ファンダムへの深い理解」「ファンダムとブランドの文脈を汲み取ること」「継続性」の3つがポイントとなること

などをご紹介しました。

一般的なブランドや商品において、エンタメにおけるファンダムほど熱量の高いファンが集団として形成されているケースは多くありません。“推し活” という文化が定着した昨今、ファンダムとともにマーケティング活動をすることに今後も大きな可能性があると言えます。

トライバルのエンターテインメントマーケティングレーベル「Modern Age/モダンエイジ」は、エンタメに精通したメンバーが多く、さまざまなファンダムの言語や文化、文脈の理解に長けています。ファンダムに向けたプロモーションやコンテンツ企画を試してみたいと感じた方は、お気軽にお問い合わせください。

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