NFTの現在地はどこだ! クチコミから探ってみた

 2021年3月22日。旧Twitter社でCEOを務めていたJack Dorsey氏により2006年3月22日に投稿された最古のツイートのNFT(エヌエフティー)が、日本円で3億円超となる約291万ドルで落札されるという出来事がありました。

上記の出来事は数あるニュースの中の1つではありますが、今年の春ごろから、「NFT」という単語を耳にすることがにわかに増えてきたように思います。ある時は話題のアーティストの新たな表現の場として、ある時は新しい社会を変えるテクノロジーとして、ある時は新しいビジネス機会として、さまざまな角度から語られるNFT。まずNFTアートの落札金額の大きさに目を奪われた人も多いかもしれません。

▼アーティスト Beeple(Mike Winkelmann氏)のデジタルアート「Everydays : The First 5000 Days」が約6935万ドル(約75億円)で落札

▼VRアーティスト せきぐちあいみ氏のNFTアートが1300万円で落札

▼perfume初のNFTアートが2万MATIC(約325万円)(※1)で落札

 そんなNFTではありますが、本記事では世の中の動向やクチコミの観測を通じ、トレンドとしての現在地を探っていきたいと思います。

※1 MATICは暗号資産の通貨の一種

そもそもNFTとは一体何なのか 

NFTは「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の略で、代替されることのない、唯一無二のデジタルデータのことを指します。ブロックチェーン技術により、偽造・改ざんができないのが特徴です。

従来、デジタルデータのイラストや写真、音楽、動画などのコンテンツは、一度コピーをしてしまうと、どれが本物のデータでどれがコピーか判別するのが困難であり、コンテンツホルダーにとっては管理や希少性の担保に課題がありました。

このような背景のもと、ブロックチェーン技術によりデータが識別され、デジタルコンテンツに「唯一無二性」を付与できるようになったことに、大きなイノベーションの可能性を感じます。これにはゲーム業界からも熱い注目を集めており、さまざまな国内外のプレイヤーによる取り組みが活発化しています。

また、NFTは会員権や不動産などの領域でも期待をされています。2019年には、いち早く米経済誌「Forbes」が会員権をNFTで販売し話題になりました。

NFTが人々に浸透する上での構造上のハードル

NFTが人々に浸透し、当たり前に使うようになり、会話されるようになるには「言葉」と「行動」の定着が必要と考えます。人々がNFTを日常に採用するためのハードルを乗り越えるには、仮想通貨の管理に使われ、NFTの所持・管理にも使用されている「ウォレット」が身近になる必要がありそうです。もしニュースやクチコミなどを見てNFTに興味を持っても、ウォレットの導入が身近でないために行動に移さない人も多いかもしれません。

NFTが文化として定着するには、「身近でない」行動を採り入れるためにモチベーションをあげたり、ウォレットの普及などのNFTを受容しやすい環境を整えたり、さまざまなアプローチが必要だと考えます。

このようなNFTが文化になっていく上でのハードルも踏まえつつ、まずはNFTのツイート数を調べてみようと思います。

増える「NFT」ツイート

「NFT」のオーガニックツイート(※2)を集計/集計期間:2018年7月1日~2019年6月30日、2019年7月1日~2020年6月30日、2020年7月1日~2021年6月30日

過去3年間、「NFT」のツイート数の推移を追ってみると、この1年で大きく数字を伸ばしてきたことが分かります。

また、上記の3年間における日別の推移を追ったのが下記のグラフです。

「NFT」のオーガニックツイート(※2)を集計/集計期間:2018年7月1日~2019年6月30日、2019年7月1日~2020年6月30日、2020年7月1日~2021年6月30日

大きな伸びを見せたこの1年の中でも、特に3月以降にツイート数が大きく伸びてきたことが読み取れます。

関連語から見る「NFT」

ツイート数が大きく増え始めた3月以降、「NFT」とともにツイートされた言葉を1位から30位まで並べた表がこちらです。

「NFT」とともにツイートされた関連語をランキング形式で表示/集計期間:2018年7月1日~2021年6月30日

「仮想通貨」(1位)、「BTC」(2位)、「ビットコイン」(4位)、「暗号資産」(14位)、「投資」(18位)などが上位を占めており、仮想通貨投資の文脈の一貫として「NFT」が多く語られていることが分かります(「BTC」はビットコインの略称)。

次いで、「ブロックチェーン」(3位)「ETH」(5位)、「トークン」(27位)など、NFTの基本的な概要を説明するような単語も上位にランクインしました(「ETH」はイーサリアムの略称)。

そして、特に多くの言葉がランクインしたのはアートに関する話題です。

「CRYPT ART」(6位)、「販売」(8位)、「NFTアート」(15位)、「アート」(16位)、「コレクション」(20位)、「マーケットプレイス」(21位)、「オークション」(24位)、「作品」(26位)などがランクインしています。

NFT化されたアートはOPEN SEAなどのマーケットプレイスでオークション形式で販売されており、アートそのものから取引に関するような話題までツイートされていたことが観測されました。

さまざまな切り口で語ることのできるNFTですが、まずは投資対象として語るツイートが多く、いまはまだ基本的な「NFTとは」について少しずつ理解を深めている段階であるようです。そして、コンテンツにも音楽、ゲームなどのコンテンツがある中で、直近は「アート」に関する話題が大きい割合を占めていることが分かりました。

NFTが人類にもたらす体験・価値のポテンシャル

現在NFTの話題の切り口が、少しずつ幅を広げている初期段階であることを関連語の観測から確認することができました。まだまだ人類はNFTに触れ始めた段階であるとも言え、NFTがどのような体験を人類にもたらすかを理解することこそが、今後人々に語られるようになるポテンシャルを計ることにもつながると考えます。

現在、ブロックチェーン領域でUXデザイナーとして活躍されている島津しほり氏(@siporin_)は、これからNFTがもたらすであろう体験、そしてその価値について以下のように語ります。

「いま、話題性を重視したすでに知名度の高いアーティストさんのオークション販売が目立っています。でも、本当は自律分散的なエコシステムの可能性の宝庫であるブロックチェーンの良さを、より多様な領域(プロダクト・技術・コミュニティなど)で発揮させることで、1人でも多くの人の日常をより豊かになるといいなと思っているんです。

アーティストが作品(物理・デジタル問わず)を出すときに、NFTも同時に数量限定で発行しておけるというのが当たり前になると良いですよね。発行時は知名度が高いわけではないけれど、知名度が上がってきた時に、過去作のNFTの価値が上がっている状態が生まれるような。 いつ誰が評価されるか予想もできない芸術のように、過去からの歩みも含めて評価される世の中になると、長期的に多様なコンテンツが自律分散的に流通するようになると考えています。
 
各アーティストを中心とするファンや投資家を含めたコミュニティごとにNFTを介して価値を循環させることできれば、アーティストは長期的なアウトプットが可能となります。NFTにより、新たなチャレンジを継続しやすくなることで、アーティストやファン、投資家によるコミュニティは新たな広がりを持つようになっていくのではと期待しています。」

島津 しほり
UXデザイナー。小学校教諭・DTP/グラフィックデザイン・動画制作、アプリのUX/UIデザインのキャリアを経て、現在はブロックチェーンを活用した新世代クラウドファンディング2.0「FiNANCiE」にて、先進技術を活用したサービスのUXデザイナーを務める。SNSマーケティングからコミュニティのプロデュース・企画・運用まで、日常をより面白くする体験を追求している。その他、音声ソーシャルアプリのUXデザイン、JPYC社CryptoGames社のUX・SNSマーケティングの監修など、ブロックチェーン領域を中心に活動の場を広げている。
@siporin_

 NFTの現在地はどこ?

これまでソーシャル文化研究所が分析して得られた傾向の1つに、トレンドが浸透するほど話題が深化し、より個別化・多様化した話題が語られるというものがあります。

たとえば、同じく近年ツイート数として大きく増加した「メンズメイク」を例にあげると、「BBクリーム」のようなオールインワンの初心者向きの性格の商品だけでなく、「シェーディング」や「ハイライト」のようなメイク工程の深い位置にあり、きちんと理解していないと出てこない言葉が関連語として挙がってくることで、文化としての定着が進んでいると考察しました(詳しくは過去記事をご覧ください)。

NFTにおいてはツイート数は時系列で加速度的に増加しつつ、クチコミされているNFTに関する表層的・概要的なものが多く、一歩踏み込んだ話題としては「アート」に関する話題が多くなされていることが観測されました。しかし、本来NFTはもっと多様な切り口で語られるポテンシャルがあるような気もします。

また、過去に分析した「メンズメイク」や「サウナ」と「NFT」の大きな違いは、NFTに関係する事業主の多様さです。メンズメイクは化粧品・美容業界が中心、サウナであればサウナ業界中心となりますが、NFTはコンテンツだけでなく、あらゆる資産価値がNFT化していく可能性を考慮すると、それだけ事業主が多様化していくということ。

NFTがトレンドとして浸透し、話題が深化していけば、さらに個別化・多様化したクチコミが増えていく可能性があります。NFTはまだトレンドとしての入り口に立った段階と言っていいのかもしれません。そして何より、人類はNFTがもたらすであろう体験の入り口に立ったばかり。今後の動向に、より一層注目していきたいと思います。

※2 オーガニックツイートは、リツイートなどによって拡散されたツイートを除き、一次発信されたツイートのみを指します
※本記事のデータは全て、ソーシャルリスニングツール「ブームリサーチ」で算出しています

鈴木 崇太(すずき そうた)
ソー文研 文化観測士。制作会社にてプロモーション・イベントのディレクションを経験後、 2011年にトライバルへ入社。SNSを基軸とした企業のコミュニケーション設計に従事する。SNSと街の観察に基づく「生活者の気持ちに寄り添った」企画の設計を得意とし、2018年には「ポッキー&プリッツの日」のプロモーション施策であるTikTokキャンペーン「#ポッキー何本分体操」を手がけた。
@suzukinosonzai

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