著名マーケターと語るブランドマーケティングの未来とは

今回は「#のりゆきさんと熱狂を語る」イベントで繰り広げられた、著名マーケター5名と代表 池田(のりゆき)による激論の様子をご紹介します。

本イベントでは、トライバルメディアハウス(以下、トライバル)が実施している「熱狂ブランド調査」の結果をもとに
・どんなブランドが熱狂されやすいのか?
・そのブランドにはどんな特長があるのか?
・これからのブランドマーケティングに必要なのは何か?
についてアツくディスカッションを行いました。

イベントにご参加いただいたのは、池田が日ごろから仲良くさせていただいている以下の方々です(順不同)。急遽X(旧Twitter)でお声がけしたにも関わらず、ご参加いただきありがとうございました!

Daisuke Inoueさん(以下、井上🚗)
Taro Matsuoさん(以下、マツオ🍺)
いいたかゆうたさん(以下、飯髙⚽️)
すなえりさん(以下、すなえり💄)
みる兄さん(以下、みる兄👓)

※すなえりさんからはアナグラムナッツを、マツオさんからはキリン社のビールをご提供いただきました! ごちそうさまでした。
※名前の絵文字は、皆さんのイメージをもとにトライバルnoteチームが選びました(池田はインコです🦜)。

マーケティングに関わる読者の皆さんにも、ぜひこの激論を見てほしい! と書き起こしたところ、合計で2万字になってしまいました。長い……。

正直に言うと最後まで読むには時間がかかりますが、参加した6名のマーケティングに対する熱量を感じるだけでなく、同席した私も「めちゃくちゃ面白いッッ」とその場で声に出したくなるくらい有意義な議論だったため、ぜひご覧いただけると嬉しいです。

とはいえ、時間のない方は目次から気になる項目をクリックいただくか、【3分で読めるまとめ】をご覧ください。
また、熱狂ブランド調査のことを知らない方は、以下からはじまる【熱狂ブランド調査の概要】をご覧ください(すでにご存じの方は、読み飛ばしていただいて構いません!)。

【熱狂ブランド調査の概要】

「熱狂ブランド調査」は、20カテゴリー、197ブランドを対象に「熱狂度(ブランドに対する顧客の愛情の強さを測る独自指標)」と「推奨意向度(顧客のブランドへのロイヤルティを測定する指標)」を測定するトライバル独自の調査です。

各ブランドの「熱狂度」に関する設問では、ブランドに対する愛情の強さを5段階で回答いただき『4~5(High)』を選択した方を『熱狂者』と定義しています。また「推奨意向度」に関する設問ではブランドへのロイヤルティを10段階で回答いただき、『9~10(High)』を選択した方を『推奨者』と定義しています。

この指標を用いて、各ブランドの熱狂者比率をまとめたのが以下の図です。

イベントでは、調査した全カテゴリー・ブランドの熱狂度比率を一覧にした以下の図を見ながらディスカッションを行いました(参加した皆さんには全てのブランド名が記載された資料を配布しています)。

熱狂ブランド調査の詳細はこちらをご覧ください。

【3分で読めるまとめ】

・熱狂度が高いブランドが多いカテゴリーは「他人に見せたい・自慢したい」性質がある。

・各ブランドは、売上を増やすために「ブランディング」に力を入れるべきか「流通対策」に力を入れるべきか、ジレンマに陥っている。

・ナショナルブランドは、プライベートブランド商品を製造する方が利益率が高くなる一方で、商品から自社のブランド名が消えることを懸念している。

・短期的な売上を確保するか、長期的な売上を重視するかは社内体制次第。売上重視のブランドや企業は、投資に対する価値を明確に見いだせないことも課題。

・ブランドや商品の機能的差異は、もはや分かる人にしか分からないが、その差や特長を知ることで消費者の感じる価値は増える。どのように機能の差や特長を理解してもらうかが課題。

・ブランディングへの投資が先か、流通への投資が先か。これには企業のフェーズや競争環境によって議論が必要。

・あらゆる文脈で「△△といえば◯◯」と想起されるブランドは強い。これからのマーケティングコミュニケーションに求められるのは、そういった強いブランドを目指すこと。そのためにマーケターはまだまだ工夫の余地がある。

・新しいマーケティング施策(熱狂ブランドマーケティングを含む)は社内から短期的な売上が求められる傾向にあるが、効果がでるのに時間を要する施策の場合は企業の価値観やトップの考え方に変革が必要。

上記の詳細は、以下の書き起こしをご覧ください。

・・・

熱狂度の高さは「他人に見せたい欲求」と比例する?

池田🦜 調査結果についていかがでしょうか?

※参加した皆さんには全てのブランド名が記載された資料を配布しています。

井上🚗 「スナック菓子」と「アイスクリーム」の熱狂度が高く、その他の生活消耗品の熱狂度がすべて低いのは、たぶん使用シーンを人に見せないからじゃないですか? シャンプーは何を使ってるか人にアピールする機会がないんですよ。

何を使ってようが、恋人が家に遊びにきて浴室を見たり入ったりしない限り、自分はどのブランドのシャンプーを使ってるか人に見られることがない。

池田🦜 ビールはどう?

井上🚗 ビールは他人に見せる機会がありますよね。自分のアイデンティティとして「私はスーパードライを飲む人である」とか「よなよなエールを飲む人である」ってアピールする人もいますよね。

でも、シャンプーとか下着とか、使用シーンを人に見せる機会が少ないものほど熱狂度や推奨意向度が低くなる傾向があるかなと。

池田🦜 人の目を気にしながら、その文脈を消費している?

井上🚗 シャンプーとかがそうなんですけど、ブランドのキャラクターを立てても「私は◯◯(ブランド名)を使う人である」みたいなアピールをしづらい。自分がなんのシャンプーを使ってるかを人にアピールする必要がないと、推奨意向度は基本的に低くなるんじゃないでしょうか。ブランドに対する好意度で商品を選ぶことが多いですかね。

同じく推奨意向度が低い百貨店はよくわからないですけど、下着とシャンプーっていうのはその傾向とかなり一致していて、逆に高いアイスクリームは……人前で食べたりしますね。

マツオ🍺 アイスやお菓子は、日常における“ご褒美感”が昔より増しているんじゃないかなと思っています。休憩時間などで、お菓子とかアイスを食べるんだったら「ご褒美として必ずこれを食べる」と決めているんじゃないかなと。

みる兄👓 その観点でいうと、僕はランニングシューズが意外と低くて気になりました。商品の機能で買ってる方もいるんでしょうけどね。

「ナイキを履いている俺イケてる!」っていうマインドが服と似ていると思ったんですけど、平均値が他のカテゴリーと比べて高いものと低いものは、井上さんがおっしゃっていた理由で差があるんだと思います。

池田🦜 それで言うと、コーヒーチェーン低すぎじゃないですか? 

マツオ🍺 コーヒーチェーンもダンゴになってる(ブランドごとに差がない)のが気になりますね。

池田🦜 うーん、解せないですよね。

すなえり💄 シャンプーとかコーヒーとかって、なんでもいいっていう人の割合が意外と大きいと思うんですよ。女性用シャンプーでいうと、私は美容室で売られているシャンプーを買っているんですけど「シャンプーに3000円もかけるのはおかしい!」と感じる人は一定数いると思いますし、周りにも多いですね。

みる兄👓 調査内容のデータに書かれている平均値について、もっと深堀りしたいですね。コアなファンは一定数いるけど、数字を平均した結果熱狂度の平均値が下がってしまっているのか、コアなファンもおらずバラツキもなく平均的に低いのかが気になります。

池田🦜 平均値と中央値がほとんど変わらないのか、ってことですよね。すごいバラツキがあるのか、平均値は丸まっちゃって低いけど中央値は高く出るのか。

みる兄👓 っていうデータもあると、さっきの仮説が確かめられるなと。

※注:ブランド別の調査レポートには熱狂度と推奨意向度の2軸で、調査対象者の分布がわかるバブルチャートを掲載しています。

マツオ🍺 ビールはブランドごとに違いがあって、『一番搾り』が好き、『スーパードライ』が好き、『プレミアムモルツ』が好き、と好みがある人もいれば、アルコールの度数などブランドごとに差が表れにくい理由で選ぶ方もいらっしゃる。

池田🦜 その人たちは第3のビールを飲んでいたり?

マツオ🍺 飲みたい気分だけれど、特に明確なこだわりがない方もいらっしゃると思います。

ブランドを強化するべきか、配荷率を高めるべきか

井上🚗 商品が選ばれる要素に、流通は何かしらの形で絡んでいるでしょうね。商材によって全然違うので。どこでもすぐに買えるようなものと、そうでないもので差は生まれている。

マツオ🍺 確かにコンビニで買えるのか、専門店に行かなきゃ買えないのかなども影響していそう。

池田🦜 そうですね。コモディティ化しているカテゴリーのマーケターたちは、いったいどのような戦略を講じていくべきなのかっていうのがすごい悩ましいと思うんですよ。配荷率を高めるための戦いは、価格競争のど真ん中じゃないですか。

みる兄👓 ビールもそうですけど、限られた棚の中で各ブランドの商品が近接してるじゃないですか。そうすると最安戦略でいくか、記憶の刷り込みですぐに思い出してもらえる状態をつくるしかないですよね。

マツオ🍺 そうなんです。なので、メジャーなビールブランドはテレビCMを多く投下する戦略をとることが多いですね。

池田🦜 そうなると『ブランディングの科学』でバイロン・シャープ氏が言っているダブルジョパディの法則(※)みたいな感じになっちゃうじゃないですか。棚を支配したブランドが勝つみたいな。

でも結局、「宣伝予算と販促予算を持ってるブランドが勝つ」っていう話になるから、「それ以外に戦うすべはないの?」みたいになっちゃうとなんだか夢がないって思っちゃう。

※注:ダブルジョパディの法則とは、「マーケットシェアが低いブランドは購買客数も非常に少ない。またこれらの購買客は行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティもやや少ない」という法則(バイロン・シャープ著『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』P.8より引用)。

井上🚗 それはありますよね。

池田🦜 「大概のドラッグストアには、ほとんどのシャンプーが並んでるぜ?」ってなったときにどう戦うかなんですよね。

井上🚗 複数のブランドを抱える企業でも、お店ごとに棚の位置が違ったり、あのブランドは並ぶけど、こっちのブランドは並ばなかったりということはあります。もっと言うと、どの商品も並んでいないブランドもあるので、どのように棚をおさえるのかはめちゃめちゃ重要ですね。

池田🦜 となると、流通営業の人たちが棚を取りたいときに「こんなタレントでこんなCMでこんなGRPで」って空中戦を仕掛けるのか、営業マンによる現地での地上戦で頑張るのかでいうとどうですか?

井上🚗 メーカー視点で言うとマーケティングって、ブランディングと流通開発の合わせ技なんですよね。
ブランディング理論って過去から色々な変遷があるんですけど、新しいブランディング理論が出るタイミングって、小売とメーカーのパワーバランスが変わるタイミングなんですよ。小売が強くなったら新しいブランディング理論が出てきたり。流通対策とブランディングは実際両方セットで考えなければならない。

たとえばAppleはブランドを立てて、流通対策が必要ない、向こうから売らせて欲しいと言わせるような戦略をとっている。ブランディングに予算を使うのか、流通対策に予算を使うのかはブランドが置かれてる状況によりますよね。

池田🦜 流通対策を頑張っても、消費者は「どれを選んでもそんなに変わらないよね」「棚に並んでるから買ってるんだわ」と感じる。

すると小売は、長い目でみると「そろそろプライベートブランド化を進めていくから、メーカーの工場で作ってよ」という話になる。飲料などは特に、顧客の熱狂度が低いと、プライベートブランドへのシフトがすごい進みやすくなっちゃうんじゃないかな。

マツオ🍺 確かにそういう見方もできますね。

池田🦜 消費者も「プライベートブランドでいいのでは?」「80円だし」と感じる。要は、ブランディングに力をいれておかないと、プライベートブランド化しちゃう恐れがあると思うんです。

ほとんどの人が「△△(カテゴリー名)といえば◯◯(ブランド名)」と思っていそうな商品を取り扱うブランドの担当者に聞いて面白かったのは、消費者のなかでも「なんでもいいや」っていう人は安いプライベートブランドにスイッチしちゃうんじゃないかと思っていたけど、そうじゃなかったんだって!

すなえり💄 えっ、そうなんですか!?

池田🦜 月に1、2回くらいしか消費しない商品の場合、50~100円の違いなら(プライベートブランドではなく)特定のブランドを冷蔵庫に入れておこうと思うんだって。だからしっかりブランディングができていると、いくら50円安くてもスイッチしないんだって。へぇー、面白いと思って。

でも最近コンビニで売っているプライベートブランド商品の裏面を見ると、シェア1位の企業名が書いてあるんですよね。メジャーなブランドも、ブランド名が表に出ない(小売の名前が表に出ている)プライベートブランドの生産に取り組んでいる。

昔だと、マーケットシェア1位の企業はOEM(受託生産)をやらなくて、2~3位のところが「工場のラインを空かせておくんだったら」ってことでプライベートブランド商品の生産を請け負ってたじゃないですか。

井上🚗 さっきの話でいうと、プライベートブランドはブランディングを0で流通を100にしている極端な例ですよね。

池田🦜 はい。

井上🚗 そのバランスですよね。消費財で言えば、どちらかというと現在はブランディングより流通対策にお金を払うトレンドが強いと思います。広告が溢れかえるなかで、ブランドがお客さんにメッセージを届ける難易度はかつてないほど高い。しかも広告だとSOV(※)の取り合いが全業種相手になってしまいます。だから、流通対策をしたほうが売上が計算しやすい

で、OEMは極端な流通対策。「ブランドが0になる代わりに、流通対策に100%お金を使いますよ」っていう戦略です。広告依存の高かった企業がそちらを選ぶケースが増えてきているから、シェア1位の企業によるOEMも増えてきてるっていうのが僕の考えですね。

※注:SOVは「Share of Voice」の略。業界やカテゴリー内における全体の広告費総額に対して、特定ブランドの広告費が占める割合を示す。

ブランドに投資することが難しい組織的なジレンマ

池田🦜 これ、大企業の取締役の任期も影響している気がして。同族経営で「未来100年、自分の子どもも孫もひ孫も、この商売が成り立っていかないと家業が絶える」という場合、そのような戦略を本当に立てるんだろうかって思うんです。

取締役は、任期中に売上と利益を出しておかないといけない。だから利益を最大化するためであれば、OEMでもなんでもいいから売上や利益が上がる方に投資せよって話に絶対なるじゃないですか。近視眼的な経営をやってると、5~10年経ったときに取り返しがつかないくらい流通に全部握られちゃってて、みたいな。

井上🚗 それはそうですね! ブランドをバランスシート(貸借対照表)的な視点で見てないっていうことですよね。

池田🦜 そう、そう!

井上🚗 短期の売上だけでなくブランド資産を蓄積し、10~20年後に活用するかどうかっていうところまで考えられてないっていう。

池田🦜 そう。ブランドのバランスシートを意識してないんですよ。みんなP/L(損益計算書)しか考えてないから。

マツオ🍺 それは難しい問題ですね。

池田🦜 同族企業が一般的に強いのは、彼らがバランスシート重視で考えているから。何かをするときに「それって企業の持続可能性に寄与するのか? しないんだったらこの意思決定は(短期的には儲かるけど)しない」って考えやすいですよね。

井上🚗 バランスシート的にブランドを資産として評価する方法ってないじゃないですか。

池田🦜 ないですね。

井上🚗 もしやるとしたら不動産鑑定士みたいな、“ブランド・アプレイザー(ブランド鑑定士)”みたいな資格を作らないと実現できない。

不動産の価格も科学的に算出する方法はないので、不動産鑑定士っていう資格を国が認定して、駅からの距離や過去物件の事例などを加味して価格を決めるというガイドラインがあるんですよね。

ブランドを金額で評価できるなら、国かどこかが仕組みとガイドラインを作って、それで算出された価格をバランスシートに乗せるとか、そういう仕組みを作らないと。

池田🦜 でもグローバルブランドランキングってあるじゃないですか。

井上🚗 あれは調査対象が限定的っていうのと、基本的には企業としてのブランドじゃないですか。プロダクトブランドを評価できないと成立しない。

池田🦜 以前、経済産業省がいろんな有識者を集めて「企業のバランスシートの中にブランド資産が加味されていないのはおかしいから、ブランド資産をバランスシートに反映するべきだ」みたいなプロジェクトをやったんですよ。

それで出来上がった計算式の、一番でっかいパラメーターが“年間にかけた宣伝広告予算”だったんです。要は年間でいくらの宣伝広告予算を使ってるかで、ブランドのバランスシート上の価値を計算しようとした

一同 えー!

池田🦜 でもバイロン・シャープ氏の考えに基づくのなら、分かるんです。想起性を高めて、店頭で思い出したら買うっていう。でも、店頭で思い出して買うような商材じゃない場合、そんな単純な話じゃなくなるじゃないですか。

消費者は「違い」を知覚できるのか?

マツオ🍺 店頭で見つけて買ってもらうことに集中する戦略は、スーパーやコンビニのラストワンマイルでいかに思い出してもらえるかっていう低額商材に多いですね。

井上🚗 でも車とかもそうですけどね。バイロン・シャープ氏の言うメンタルアベイラビリティ※)とフィジカルアベイラビリティ(※)は両方とも大事です。

買おうかなと思ったときに『アウディ』や『メルセデス・ベンツ』を思い出してもらうという、メンタルアベイラビリティが大事である一方で、近くにディーラーがあると言うフィジカルアベイラビリティも大事。近くにディーラーがあると想起されやすい、というメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティの相互作用もあります。

※注:メンタルアベイラビリティとは「ブランドが購買シーンにおいて想起されやすいこと」。フィジカルアベイラビリティとは「ブランドの存在感が高まって買いやすくなり、多くの消費者に幅広い購買機会が提供されている状態」のこと。
(両単語ともバイロン・シャープ著『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』P.256、P.262より引用)

池田🦜 でも国産の自動車メーカーが大量に広告を出稿してても、熱狂者比率が自動車カテゴリーでワースト2なんですよ。フィジカルアベイラビリティ、つまりディーラーはたくさんあるし購買機会は多いんですが熱狂度は低いので、値引き交渉も多そうでディーラーの方は大変だろうなと思いますね。

シェアが低いメーカーの車は乗ってる人が少ないけど、乗ってる人は“だからこそ”というこだわりを持って乗ってるから熱狂度が高いんですよ。でもシェアが低い。そういった意味では『よなよなエール』も同じです。シェアの高いメーカー同士だと、プロダクトで明確な優位性ってそんなにあるのかな? とは思いますね。

マツオ🍺 車なんかにはあるんじゃないですか?

池田🦜 各車の差異はね、もはや分からないですよ、ブラインドで運転したら。

井上🚗 ほぼ一緒なんですよ。

みる兄👓 運転してるというよりは、最初に話してたように「乗ってることを人に言えるか」どうかじゃないですかね。

池田🦜 そうなんですよ。そうするとやっぱりブランドのイメージだし、パーセプションだね。

みる兄👓 そうですね。

井上🚗 自動運転のシステムは同じサプライヤーが作っている場合が多いので、車にはほぼ機能的な差がないんですよ。同じサプライヤーから集めたものをブランドごとに違う名前で世に出していて、消費者は違いを知覚できないんですよね。

例えば四駆システムでも、メーカーごとの違いってめちゃめちゃメカニカルにはあるんですけど乗ってて全然分からないので。そういう意味で言うと、ほぼ機能的な差はないんです。ブランドの情緒的な価値で差がついてるだけ

池田🦜 へぇ! 情緒的な差! 

マツオ🍺 でも車って内装とか、座り心地とか、ハンドリング周りとか、エンジンとか、そういった差はあんまりないんですか?

井上🚗 差はあることにはあるんですけど、その差が分かるのは数%くらいのお客さんでしょうね。

マツオ🍺 あー。よっぽど車好きじゃないとってこと。

井上🚗 四駆の走ったフィーリングの違いとか、分かる人には分かるんですよ。「これはさすが4気筒と6気筒とで違うな」とか。でもほぼ分かんないです。

池田🦜 僕だって(自分が乗っている)55年前のワーゲンバスを「なんで乗ってるの、こんなに金かかるのに!」つったらもう完全に「ワーゲンバスに乗ってる俺!」みたいなことだけですよ。

この世に僕しか人類がいなくなったら、普通の軽自動車がいい。故障しない車! ワーゲンバスに乗っている俺を見ているオーディエンスがいるから乗ってるんですよね。車の選び方ってそうなってると思う。

井上🚗 味もです。これ料理やる人が結構言うんですけど、料理に対する事前のインプットで味が変わるんですよ。

池田🦜 知識が味を決める。

みる兄👓 プラシーボ効果(※)ですね。

※注:プラシーボ効果とは、もっぱら思い込みの力によって実際上の効果・影響が表れること(実用日本語表現辞典より)。

井上🚗 そうそう、プラシーボ効果です。事前情報によって味覚や知覚が変わるんですよ。価値って結局人が知覚するものなので、実際に差があったとしても知覚できなかったら差はないですし、食べ物ですら情報で知覚価値をコントロールできるんですよね。

だから、池田さんがおっしゃるとおり、完全に機能だけで勝負できる商品はほぼない。お菓子であれ、ビールであれ

ブランドが先か、流通が先か

飯髙⚽️ 井上さんの「情緒的な価値」の話で言ったら、ストーリーが大事ってことですよね? いわゆるD2Cブランドは「こういうストーリーがあって、この商品にはこんな価値がある」って言えるじゃないですか。でもプロモーションに、そういった話はほとんど出てこない。いまの話を聞いて思うのは、ストーリーを「誰が」言ってるかも重要なんじゃないかと思ってて。

低価格商材こそストーリーを発信すればいいし、ビールで言ったら『よなよなエール』が有名ですよね。『よなよなエール』はブランドの意義を発信しながら商品を作って、ファンイベントで社員がストーリーを伝えるから熱狂度が高くなるんだと思います。

井上🚗 そうなんですよね。おっしゃる通りなんですけど、実際の購買には変数として流通がめちゃめちゃ絡んでくるんですよね。
例えばめちゃめちゃストーリーが伝わって、惹かれている商品があるとするじゃないですか。で、それを買いに行ったら近くのコンビニになかった。

池田🦜 たとえば『よなよなエール』ですね。

井上🚗 『よなよなエール』が近くのコンビニで売られていないとする。そうしたら、そんなにストーリーにハマってないんだけど「まぁいいかな」っていうブランドが売られていたら、それを買いますよね。わざわざ遠くのコンビニにまで行かないので。結局そこのさじ加減なんだと思います。

ストーリーを作ることに投資をするのか、流通を広げてフィジカルアベイラビリティを高めるのか。実際には流通とブランドの掛け算になってくるんですが、少なからずブランドが総合的に判断して、売上に寄与しやすい配荷を増やすという選択をすることがある。

飯髙⚽️ 確かに流通をつくったり強化したりした方が短期的に売上は増えると思うんですけど、『よなよなエール』って今のほうが(過去に比べて)売れてるじゃないですか。

売ってるお店は少ないけど、売上がじわじわ増えていくと同時に取り扱うお店がどんどん増えていくというブランドもあると思っていて。直近で3カ年の売上を守りたいけど、ブランドにまだ価値がない、誰も知らない状態だと最初から配荷を増やす戦い方をしても勝てない。

たとえばキリンさんがむちゃくちゃ高いビールを出して、全然流通されない商品みたいなのがあってもいいんじゃないかなと。もしそれが売れるんだったら、既存の流通を活用して最大化するみたいな。

池田🦜 『よなよなエール』がこれだけの熱狂度を維持しながら、マスプロダクト化ができていくのかどうかっていうのが本当に重要。

「俺しか分かっていないこの素晴らしさが分かるか」みたいな心理的な優位性が熱狂を生むけど、今回の調査のように、ビールはどこに行っても買えるブランドが一番熱狂者比率が高かったっていうのはすごいなと思うんですよ。

「熱狂度を上げていくことが競争優位につながる」といいつつ、やっぱり熱狂を維持しながらマスブランド化をしていくっていうことは、(ブランドなんて)どうでもいい人たちがユーザーになるってことだし、ブランドの熱狂度がどうしても薄まらざるをえないので難しい。

調査のテーマパークカテゴリーで言うと、熱狂度が同じだけど、来場者数に大きく差がある2つ(AとB)がある。Aは好きな人はすごく好きだけど来場者数がBより少なくて、Bは熱狂的な人もいて来場者数も圧倒的に多い。みんなが行っていて、熱狂度も高いっていうのはやっぱりすげぇなと思いますね。

あらゆる文脈で想起されるブランドは強い

井上🚗 それはまさにメンタルアベイラビリティの違いじゃないですかね。メンタルアベイラビリティって、記憶に紐付いている“リンク”のバリエーションと太さと理解しています。例えば子どもの誕生日にどこかへ行こうとなったとき、どこを思い出すか。もしかすると、どっちのテーマパークも思い出すかもしれない。

じゃあ、田舎から友達が来て「どこかに連れて行こう」というときは? この場合でも両方のテーマパークを思い出すかというと、そうではないかもしれない。“リンク”のバリエーションが違うんですよね。つまり、どんな文脈で思い出してもらえるか

来場者が多いテーマパークはいろんな文脈に対してリンクを張れているということを意味してるし、熱狂度とは別の軸で紐付いている“リンク”の数っていうのがあるんだと思います。

池田🦜 そうですね。文脈がいくつあって、数多くの太い“リンク”を作れているかで、競争優位が変わると。

井上🚗 そうです。例えば子どもの誕生日だと、両方のテーマパークを思い出してもらえるような“リンク”があるかもしれないですけど、来場者数が多いBのテーマパークは同じような太さの“リンク”が「田舎の友達を連れていきたい」にもあるという。

池田🦜 だから多くの人たちが富士山に登るのは、日本一だからというのもあるけど“リンク”の数がすごく多い気がするんですよ。いろんな理由でみんな富士山に登ってるけど、2位とか3位以下の山って、たぶん山登りが好きな人しか登らないじゃないですか。

でも「富士山に登れたら俺はこの転職が成功するかもしれない」「弁護士試験に合格するかもしれない」みたいな、「日本一の山を登った俺はこんなことができるんじゃないか」といった文脈がすごくいっぱいありますよね。

井上🚗 それがセイリエンス(※)なんですよね。

マクドナルドもセイリエンスがすごく強くて、例えば朝は朝マック、カフェはマックカフェ、夜は夜マックみたいな。夜マックをやり始めたのは、“リンク”の数を増やそうとしたからなんじゃないでしょうか。マクドナルドに強いセイリエンスがあるということは、いろんなシチュエーションとの“リンク”を張ってる、かつそれぞれが太いと言うこと。

※注:ブランド・セイリエンス。ブランドの『突出性』や『顕現性(けいげんせい)』と訳され、メンタルアベイラビリティとほぼ同義で「購買シーンにおいて想起されやすい」ことを意味する。

池田🦜 バイロン・シャープ氏が言っているダブルジョパディは理解できるんだけれど、夢がないというか……。競合が同じことをやってきたときに、どう競争優位を担保するんだっていう概念が抜け落ちてる気がしてて。

競合が同じ情報を発信して、メンタルアベイラビリティやフィジカルアベイラビリティ、先ほどのセイリエンスみたいな観点から、顧客に同じ意思決定をされたらどう戦うんですかっていう話はあの本の中に書いてないんですよね。

井上🚗 ダブルジョパディって結局何言ってるかというと、僕の理解だと「シェアが高いとロイヤルティが高い」。

池田🦜 はい、そうですね。

井上🚗 ロイヤルティはシェアの結果でしかないという主張ですよね。じゃあシェアを高めるにはどうするか、の答えはそこにあんまりないんですよね。

池田🦜 そう、そう! そうなの! そうなんです!

井上🚗 一つの答えがセイリエンスなんじゃないですかね。購買シーンにおいていかに想起されやすいか。僕の考えでは、メーカーの創意工夫っていうのはまさにいまの話で、変わりつづける消費環境の中で、消費者の何にどのようなリンクを張るのかっていうクリエーションなんだと思います。

だからマクドナルドはマックカフェをつくったわけですよね。で、カフェもそれなりに話題になり定着したら、次は何かといえば夜マック。このように、いろんな機会に“リンク”を張っている。リンクのバリエーションを増やしている。

もしかしたらサラリーマンがサボるっていう文脈があるかもしれないし、運転手が眠気覚ましに寄るっていう文脈もあるかもしれないし、どこに“リンク”を張るかというのが、まさにマーケティングにおける想像力の発揮のしどころだと思います。

みる兄👓 その観点でいうと、熱狂度調査のカテゴリーに「缶コーヒー」がほしいなって思いますね。

すなえり💄 あっ! 全然違いますよね!

みる兄👓 セイリエンスの話と同じなんですけど、例えばアサヒ飲料の『ワンダ モーニングショット』やサントリーの『クラフトボス』で、違いが出るのか。

池田🦜 でもトラックを止めたときとかに、そこにあった自動販売機がサントリーだったかキリンだったかで決まりそう。それこそフィジカルアベイラビリティなんじゃないかって思っちゃう。

マツオ🍺 缶コーヒーは、おっしゃる通りコンビニ以外で自動販売機っていう要素が出てくるので、自動販売機を大量に持っているメーカーが強いんですよ。

井上🚗 そこはフィジカルアベイラビリティとメンタルアベイラビリティのバランスですが、ソフトドリンク市場は圧倒的にフィジカルアベイラビリティ。

マツオ🍺 そうなんですよ。

みる兄👓 コモディティ化しそうななかで、缶コーヒーはいろんなセイリエンスに取り組んでるジャンルではあるじゃないですか。

飯髙⚽️ 配荷数が同じっていう前提条件では、ですよね。

マツオ🍺 ビールだと、とにかくビールを好きになってもらうことや、ビールを愛している人たちを集めて自社の取り組みやストーリーを伝えるようなことをデジタルとリアルの中でやろうとしてるんですよ。ただ、それとは別に……。

みる兄👓 配荷数がね。

池田🦜 値段で比較してプライベートブランド商品や第3のビールを買ってる人は、ストーリーを知らないし関係ないんですよ。「なんだ108円が106円になってるわ!」と言って、ビールを買って、公園で飲む。安く酔えるから最高だって思うじゃないですか。

マツオ🍺 そうですね、金額でどのビールを買うかを決める方が多いのは確かです。

マーケティングコミュニケーション“だから”できることとは?

池田🦜 これまでの議論をふまえると、戦後75年経ってマーケティングって一体なんなんだと。マーケティングは昔、経済が成長軌道の中でどう差別化をするかとか、いい商品を多くの人に知ってもらうかとか、多くの人たちが買いやすいするといった意義があったんですよ。

でも、いまでは誰がどう見ても全部いい商品なんですよね。で、全部いい商品がラストワンマイル、つまりすぐ買えるところに全部並べ終わっちゃってるので、なんかすごい些末なところで戦っている感じが出てきてしまっている部分があるのも否定できない。

じゃあマーケティングに夢はあるのか、未来はあるのか。ちょっと「こういうふうに感じるだろ?」「こっちのブランドのランニングシューズのほうが皇居ランが楽しく感じるだろ?」っていうこの“感じる”で戦っていくのがマーケティングの究極のゴールだと思っているんですよね。

マツオ🍺 それは日本における流通の仕組みによるものかもしれませんね。例えば、アメリカのクラフトビールで考えるとボストンはボストン、ニューヨークはニューヨーク、カリフォルニアはカリフォルニアのといった具合に、地元の人は地元の商品をよく飲むんです。

もちろんワインとかも売れるけど、アメリカはクラフトビールをよく飲むので、地域性のある商品を地元の人が大量に消費する。

池田🦜 日本は全国流通型のスーパーやコンビニがほとんどですもんね。どれだけ卸すことができるか、というのがとても重要。

でも、やっぱり自分のようなマーケティングフェチからすると、各業界のすべてが高度成熟化をし終わった中におけるマーケティングの価値って一体なんなんだろうなって考えてしまって。

飯髙⚽️ まぁそうっすね。

池田🦜 「いい商品を作っているので、こっちを選ぶと失敗しないよ。そっちの商品を買うと失敗するよ」というのがブランドの起源だし、「こっちの商品は多くのお店で買えるよ」というのがチャネル開発だった。

でもいま、どこのチャネルでどの商品を買おうがだいたい失敗しないので、ブランドの価値の違いは、どっちの商品を買ったら良いかじゃなくて、どんな気分になれるかの気分競争の話になっている。

井上🚗 そして、ブランドの価値作りにはマーケティングコミュニケーションが大きく寄与しますね。

池田🦜 だよね!

井上🚗 情報で味の違いを示すとか、そういうところで価値を付けていかなきゃいけないので。

池田🦜 そうですよ。百貨店なら入るときに「私は伊勢丹に来た」「三越に来た」っていう知覚ですよ、まさに。知覚の差

あとは誰かへギフトを買うときに、のし袋にどの百貨店のロゴが貼られているかで決めることもあるじゃないですか。その知覚はコミュニケーションでしか作れないですよね。

井上🚗 これはすごい議論すべきところなんですけど、ダブルジョパディの法則でまず言われているのは「ロイヤルティはシェアの結果でしかない」っていうのが一つ。もう一つは「どんなにロイヤルティを高めても、ヘビーなロイヤルティは一定数しか生まれない」ということ。

パレートの法則のとおり、2割のお客さんが8割の利益を出しているとするじゃないですか。例えばそれが1年目だとする。そして10年が経過しても、その割合は変わらない。
でも1年目のときに上位2割のところにいたお客さんは、10年経つと上位2割の中にはもういないかもしれないんですよね。

マツオ🍺  ロイヤルティの高い人が固定化しないのはそうですね。特に低額消費材の場合は、翌年に多くのユーザーが離脱すると言われてますし。

池田🦜 高ロイヤルティの人は一定の割合で必ず離脱してしまうから重視しても意味がない、どんどん新しい顧客を増やすべきっていう話は分かるんだけど、高ロイヤルティの人たちだけを重視するなんて話はしてなくて、両方やればいいじゃないっていう。

マツオ🍺  そうそうそう!

池田🦜 で、ダブルジョパディで言ってることはよく分かるんだけど、新しいお客さんを増やしていかなきゃいけないなんて当たり前の話で。やらなきゃいけないんだけど、その新しいお客さんはどうやって獲得するの? 新規顧客獲得のコストがどんどん高くなってきてるでしょう? と聞くと、頑張ってチャネルを増やして、宣伝広告予算で新規の顧客をいっぱい連れてくるしかないんだって。

それができないから困ってるんじゃないか! みたいな話に答えてくれてはいないんですよ。

井上🚗 でも、高ロイヤルティのユーザーが蓄積されないからこそ、新規参入企業に希望があるとも言えますよね。高ロイヤルティユーザーのAさんが、低ロイヤルティユーザーになるとするじゃないですか。で、新しくBさんが高ロイヤルティユーザーになるわけですよ。

この変化が起こらなかったら、高ロイヤルティユーザーがどんどん蓄積されていくんですが、そうならないからこそユーザーの移動を見込んで新しいブランドが参入できるんですよね。

たとえば『BOTANIST(ボタニスト)』はシャンプーという伝統的なカテゴリーに切り込んできましたよね。ロイヤルユーザーが一定以上は蓄積しない、という前提がなかったら、シャンプーのように古くからあるカテゴリーに参入するモチベーションはあまり起きないと思います。

ただ、シェアがある程度高く、人員や予算を多く持っている他社が『BOTANIST(ボタニスト)』のようなことをやろうとしているかと言ったら、やっていないような気もしている。

みる兄👓 やれないですよね。

飯髙⚽️ やれないっす。

池田🦜 予算持ってるナショナルブランドでは、ちょっとだけ『BOTANIST(ボタニスト)』的な新しいこともやればいいのになっていうことを言ってるんですよ。

井上🚗 まさにそうなんですよ。

企業の「価値観」でマーケティングへの向き合い方は変わる?

マツオ🍺  グローバルの日用消費財市場には、共感してもらうマーケティングをやっているブランドや商品があるじゃないですか。共感をしてもらうためにマスの活動もやるけど、本当にブランドや商品が好きな人を集めて、さらに好きになってもらうような、共感から応援につなげていくような活動もしていきたいなって思っています。

池田🦜 日用消費財における共感と応援における売上の貢献度ってどれくらいあるのか? っていう議論があるじゃないですか、ぶっちゃけ。

マツオ🍺  ありますね。日本の企業も世界で戦っていくには、世界でも有数のCSV先進企業にならなきゃいけないという潮流もあります。

みる兄👓 たまにキリンさんがインナーブランディングのような取り組みをやっているのを見ていて、すごく不思議に思っていたんです。先ほどからおっしゃるように流通体制と広告をやってれば売れる企業が、なんであんな労力かけてニッチなことをやるのかなって。

中堅の会社が(予算がなくて)コストパフォーマンスが高い施策をしようとしているんだったら分かるんですけど……。ビジネスになる・ならないというよりも、そういった取り組みをすることを良しとするような文化や定性的なマインドシップがあるじゃないですか。

マツオ🍺  いまはnoteでコンテンツを発信したりキリンビールサロンというコミュニティを運営したり、デジタル上の取り組みを始めてますね。

みる兄👓 それすごい好きなんですけど、サロンなどのコミュニティ施策って予算つきづらいですよね?

池田🦜 おそらく、初年度はつきやすいんです。でも2年目、3年目になって、これを継続するのか・予算を増やすのか・やめるのか、となったときに「これは誰にリーチして、一体ビールは何本売れたんだ?」みたいな話になりがち。でもそれを説明できないと、やめようか? みたいな話になってしまう。

みる兄👓 ソーシャルメディアマーケティング全体がそうですよ。これで売上はいくら上がったんだみたいな。

池田🦜 そんなこと言ったらテレビCMだって3000GRPを2900GRPに変えたら、減った分で売上がどれだけ減ったのかなんて誰も答えられないよ。反対にテレビCMでどれくらい売れたかなんて、正確な因果関係は分からない。でも、テレビCMはずっとやってるからとりあえずはいいけど、新しいことをやると「これで何本売れたんだ?」みたいなことになるじゃないですか。

井上🚗 なんていうか美学ですよね。

池田🦜 美意識?

井上🚗 それこそ山口周さん(※)がおっしゃっているように、そもそも営利なのか、スタート地点が美学なのかだと思っていて。

ナショナルブランドの企業の「これは自分たちがやることである」あるいは「やることではない」といった価値観が、意思決定の前提になる会社とそうじゃない会社で分かれますよね。

「自分たちがやるべきことだ」と言えることは利益関係なく「やる」判断をするので、結局善悪の判断ってどこまで突き詰めても論理的な答えはでないんですよ。美学ドリブンの会社と利益ドリブンの会社、その中間の会社、3つのタイプがあるとすると、美学からスタートしてる会社は儲かる儲からないじゃなくて、僕らはこのために存在してるからこれをやりますって言えるんですよね。

みる兄👓 でもそれは土台がある前提じゃないですか。売上と利益がちゃんとあって、伸びてるからその美学を推し進められる。でも、より販促に近いような部門から「それって意味あるの?」みたいな話を問われたときに、どう返答するのか

トライバルさんがやっている熱狂ブランド戦略や調査は、比較的そう言われがちなところがあるじゃないですか。「優劣をつけるんだったら販促に集中するべきじゃないの?」っていう話になるときにどう答えるか。

「そうじゃないよ!」って答えるとき、井上さんが言うように「うちのポリシーはこうだから」って大上段で戦える会社は、その議論に勝てると思うんですよね。

でも、そのポリシーや美学のようなものがちゃんと浸透してないと、社内で戦う術がないってことですよね。それがしっかり存在している会社だと「熱狂のような取り組みが必要である」と戦えるかもしれないけど、そうじゃない会社だと販促とか営業部に予算が移ってしまうということがあると感じますね。

井上🚗 熱狂ブランドマーケティングをするかどうかってなったときに、2つあると思っていて、熱狂が手段なのか目的なのかという話。例えばアマゾンは「カスタマー・オブセッション(※)」で顧客をめちゃめちゃ熱狂させている。

カスタマー・オブセッションを持ちながら「お客さんのために我々は存在しているんだ」っていえるのは、完全に熱狂が目的なんですね。あるいは「こういう市場環境では熱狂させないとシェアとれませんよ、だから熱狂させましょう」っていう手段とした話なのか。「とにかくシェアじゃなくて熱狂なんだ」っていう話もまた分岐点というか。

※注:アマゾン社内のリーダーシップ理念において、「アマゾン社員のあるべき姿」を14条にまとめたもののうち、1条目にあたる項目。

池田🦜 手段の目的化ではなく、「熱狂させることによって持続的な売上と利益が創出されるからこそ、手段としてやらなきゃいけないのだ」じゃないと、やっぱり順番がおかしいと思うんですよね。熱狂のための熱狂っておかしい話だから。

でも「短期的な売上と利益を向上させるのがうちのカルチャーなのだ」みたいな会社と、顧客を熱狂させる戦略は合わないよね。

マツオ🍺  キリンにはマスプロダクトである『一番搾り』や『氷結』などがある一方で、クラフトビールやウイスキーなど熱狂されやすい商品もあるので、後者で熱狂マーケティングをするなど商品やカテゴリーごとに戦略を変えていく必要があると思います。

池田🦜 マーケティング本部長とか役員とか、社長とか管掌役員が事業のポートフォリオを企業のポートフォリオとして考えてくれるんだったら成り立つと思います。でも流通量が少ないブランドの商品は、販売量が少ないから超熱狂的な人によって30秒で売り切れる話があったとする。

でも、偉い人に「いや、30秒で売り切れたのはいいんだけど、結局何本売れたの?」と聞かて、「5000本です」と答えたら「はぁ? 5000本!?」と返されるみたいな。「マスプロダクトは1億本売らなきゃいけないんだよ!」と捉えられるとややこしくて。

5000本が1分で売り切れたという事実から「ブランドへのパーセプションが明らかに変わったし、こんな商品を作る我が社はなかなかやるじゃないか」「これは他のブランドへの好意度にブリッジが効いているはずだ」って、たぶん誰も言わないと思うんです。

「お前がやったことはすごいって言われてるけど、その商品って全部で何本売れたの?」みたいなことしか会話されずに、「他のマスブランドでは100万倍くらいのロットのケースを売ってるんだけど?」みたいな話になると、そこの事業部長が一番えらいみたいな話になっちゃって。それはおかしくないか? みたいな話なんですよね。

一同 まぁ……そう。

みる兄👓 メーカーは売上規模の組織が一番ですからね。外資もやっぱり一緒ですか?

井上🚗 外資はやっぱりビジョンをどれだけ体現しているかみたいな。

みる兄👓 売上がどうこうっていうよりも、また別のレイヤーがある感じなんですね。

井上🚗 アマゾンが言う「お客さまに貢献することが僕らの存在理由である。僕らができるのはお客さまを喜ばせることなのである」って、売上よりも顧客を喜ばせることを重視しているように受け取れるけど、そもそもずっと赤字だったじゃないですか。

アマゾンは赤字だったとしても、ちゃんとアマゾンのバリューを体現してる人が偉いって評価をされている。でも、売ってナンボで「売上を上げているやつが一番偉い」っていう売上ドリブンの会社もある。

池田🦜 目指すべきは売上だ! 売上こそが一番だ! と言っている会社は辛くなっていくような気がするね。

井上🚗 ビジョンとか美学ってそういうことだと思うんですよ。「未来はこうなる。なぜなら僕の世界観はこうなんだ」とか、池田さんのおっしゃっている「マーケティングというのは楽しくて、夢をもつべきなのである」っていうところからスタートするのが楽しいと思いますよ。

みる兄👓 所属が別だったとしても、根っこやポリシーは一緒なのかなと感じますしね。

マツオ🍺  あと「SNSで物を買う」じゃないですけど、いまの20~30代の人の消費活動は(これまでと)ぜんぜん違う。その年代の人たちがマーケティングの要職や経営層になってくると、いままでのやり方とガラガラガラっと変わって、物の売れ方も変わっていくんじゃないでしょうか。

みる兄👓 ゲームチェンジが起こるでしょうね!

井上🚗 変えていきましょう!

・・・

書き起こしは以上です。

改めて、突然の呼びかけにも関わらずご参加いただいた、Daisuke InoueさんTaro Matsuoさんいいたかゆうたさんすなえりさんみる兄さんありがとうございました。

事業会社に勤めるマーケターが抱えていそうなジレンマや、それに対する最適なマーケティングコミュニケーション、時代の移り変わりとともに求められる企業のあり方など、さまざまなテーマで議論しました。

トライバルは今回に限らず「これから自社に求められるマーケティングとは?」に悩む企業の皆さまと、前向きな議論を重ねていきたいと思っています。どんなお悩みでも構いませんので、もし興味がある方は遠慮なくお問い合わせください。

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最後までご覧いただき、ありがとうございました!

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